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散文-3(七夕の終わりに)

七夕はいつもあっさりと終わる
私に何も起こすことはなく終わっていく
果たしてあの人とあの人は会えたのだろうかと思うけれど

ほとんど毎年東京は雨で
でも今年は不思議と東京がどんなに雨でも
世界を見渡せばどこかは必ず晴れていて
そのどこかで会えているだろうと気づいて
実は切なくもなんともない行事のような気がして

窓の外からは雨が濡らしたコンクリートを車が鳴らす音が聞こえる
茎を少しずつ切りながら見守っていた先週のひまわりは
週末の女友達との旅行から帰って来たらしっかりと枯れてしまって
顔が大きくて明るい花こそすぐに枯れてしまうと考えながら
人間についても同じことを思う

恋愛の定義はよくわからないけれど
離れ離れになることを一番遠くに設定したくなるような状態
そんな説が私にはしっくりくる
今年の秋は一段と寂しくなるとわかっていて
それに対する準備はどうするべきなのだろう

私と恋人はきっと遠く離れたらすぐダメになってしまう
七夕の当事者たちは遠くてもずっと心は一緒にいるのであれば
それはもしかして一番うらやましいことのような
始まった上で終わらない関係がもしあるのであれば
それは多くの観念を超えている

一見大きな意味を持たない季節の行事を重ねて
少しずつ厚くなっていく思い出が刺さって
たまに家で飲むグレンフィデックのソーダ割りがより沁みるようになるのだろう

切ない思い出が増えるにつれて、お酒は美味しくなる
人間の体はもっとうまい仕組みにして欲しかったと思う部分も多いけれど
そこはとても評価すべき点だと思う
そうでもしないと切ない何かを人は乗り越えることはできない

部屋の観葉植物から一枚葉が落ちてもう一時だと気付き
先週仕事を辞めてからは、日曜日の夜だってこわくない

今年は願い事を文字に起こすこともせずに
七夕なんてあっという間に終わってしまった
来年の七夕もきっとどこかでは絶対に晴れだ

あの人とあの人の関係を心配するくらいなら自分の人生を考えるようにと
でもそんな関係を案じたりするようなゆるゆるとした自分の心の隙間もあって欲しいと
結局のところ見えない星空を考えながら、ねむる

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