書川あまね

仕事のかたわら、スローペースですが、小説を書いています。 徒然なるまま、けれどときには…

書川あまね

仕事のかたわら、スローペースですが、小説を書いています。 徒然なるまま、けれどときには深く、日常のときめきやざわめきを表現していきたいです。

最近の記事

【ショートストーリー】吹きすさぶ嵐の中で

 台風が近づいているらしい。 「まれに見る大型なんだって。窓にテープを貼ったりしなくていいかな。ごはんのパックとか、カップラーメンも買っておいた方がいいかしら」 「そうだ、懐中電灯あったかな。乾電池も買っておかなくちゃ」  テーブルの上にあったレシートの裏側に必要な物を書き留めていく。 「ママあ、おなかすいた」 「りくくん、お昼まだだったわね。ちょっと待ってね」  冷凍チャーハンを取り出し、袋を引き開け、食器かごにあった適当な皿に全部ぶちまける。米粒が数粒こぼれて、流しに放

    • 【つれづれ】物語を手放した

      目標にしている作品づくり。 「書き続ける」 呪文のように唱えているこの言葉。 なんとか、かんとか、書いて、手放すことができた。 今年は二作品を書いてみた。 おんなじような話になるんじゃないかなあと思ったけど、結果、そうなったと思うけど、まあそれも勉強のうちと思うことにしよう。 あー、やり遂げた解放感でいっぱい。 深みに到達はしたかどうかはわからない。 まあ、とにかく、やり遂げた。 それだけ。

      • 【つれづれ】The Mentalist と白日

        ーーマトリックスの新作が公開されるなあ。懐かしい、マトリックス。あの名シーン、観てみよう。  と、観てるうちに、アメリカドラマ観続けたら英語も上達するのでは?とまずみ始めたのが、SUITS。  スタイリッシュ。  あー、こんな都会で働きたかったなあ…。自分の奥深くに仕舞い込んでいた願望が姿を見せた。    次に見始めたのが、The Mentalist。  チャーミング。観てるだけでニヤニヤしてしまうJaneの笑顔。視線が素敵。  それと同時に過去の過ち、後悔、決して戻

        • 【読書メモ】九年前の祈り

           小野正嗣「九年前の祈り」表題作を読了。  先日、小野さんの講演会を聴講したので、購入してみた。  地方の泥臭さといたたまれなさ。  その只中にいると、恥ずかしさに自分は気づいているのだよ、だけど自分はその中の人ではないのよと、なんとか自分の身を律しようとする。  整然としていない、例外だらけのその世界。  鈍感さと底抜けの明るさが苛つくほどに羨ましくもあり、自分はそうじゃない、そっち側の人間ではないと思い込もうとする。  きらきらと柔らかく美しいものがどうしても欲しくて、

        【ショートストーリー】吹きすさぶ嵐の中で

          【読書メモ】「魯肉飯のさえずり」

           kindleを始めてから最初に購入した本である。 いつだったか、新聞の書評欄で読んでからずっと気になっていた。  というのもルーロー飯が美味しいから。  確か、二度目に台湾に行った時、友達が連れていってくれた食堂で初めて食べたと記憶している。  地元の人しか入れない、入りづらい、丸椅子の置かれていた食堂だった。  大きめのご飯茶碗にたっぷりとかかった甘辛い豚肉の独特の香辛料が後を引く美味しさだった。  同じ時にパクチーと牡蠣の入った麺線を食べた。牡蠣が苦手なので、食べた

          【読書メモ】「魯肉飯のさえずり」

          【読書日記】路(ルゥ)

           初めて行った海外はイギリスだけれど、リピートした国は台湾だ。友達が住んでいるのもあるけれど、この「路」のヒロインと同じく、私も金城武ファンということもある。彼のポスターが貼ってあるという理由だけでわざわざ友達にその店に連れて行ってもらい、呆れられたものだ。  このストーリーは、台湾新幹線にまつわるドラマである。海外でのプロジェクトチームの苦労、異国で暮らす時間、家族、恋人、さまざまに折り重なる出来事に向き合い、喜び、苦しみながら、自分の答えを見つけていく。  その時という

          【読書日記】路(ルゥ)

          【読書日記】「私の世界文学案内」

           「ライ麦畑でつかまえて」「車輪の下」「にんじん」「朗読者」……。  多分読んだとおもう世界文学を並べてみた。  私の読書体験は小学生の頃、ルパンシリーズから始まっている。次はホームズにいって、世界文学全集のようなセットをかってもらって、小公女、トムソーヤ、ガリバー、海底2万マイル、ああ、確かに子供の頃は世界文学をよく読んでいたなと思いだした。  大人になってからも、ポアロは読んだ。「モモ」は読めなくて、高校生のレファレンス本の中にあった「罪と罰」、名前が覚えられないと手に

          【読書日記】「私の世界文学案内」

          【ショートストーリー】忘れ物はしていいの

           パッキングは1週間前から始めると決めている。  前日でいいんじゃない、とは同居人のセオリーらしいが、どちらかといえば猫派、ラーメンは絶対に豚骨、時計はデジタル表示と趣味嗜好がマッチする私でも、こればかりは賛同しかねる。  パッキングは早すぎても、ぎりぎりでも「うまくいかない」のだ。  たとえば二年前の観劇の旅は、チケットの抽選にやっと当選して何ヶ月も前から楽しみにしていたので、一ヶ月前には小さめのキャリーケースに二泊三日分の着替えやら化粧品やら応援グッズも詰めこんで、玄関

          【ショートストーリー】忘れ物はしていいの

          【読書日記】「深い河」

          「インドに行ったら人生が変わる」  今のところそのチャンスは残念ながら巡ってきていないが、この川はガンジス川のことだという。  パンデミックになって、ニュース映像で遺体を焼いているのをみたので、想像しながら読み進めることができた。    行き着くところまで行きつかず、ちょうど良いところでやめて、壁があったら引き返す。そんなふうに暮らしてきているなあと思うことがある。  もしも、私も大津のような人に出会ったら、それがかわるのだろうか。  そうなるには時間が足りないと思ってし

          【読書日記】「深い河」

          【読書日記】「死海のほとり」

          遠藤周作の「死海のほとり」を読了。 英会話のレッスンのおまけで宗教リテラシーを学んで以来、ずっと気になっていたことが掘り起こされてきている感じがしている。 同じく遠藤周作の「深い河」を読み終わってからこの本を手に取った。 「死海のほとり」は、現代の話とイエスがいたころの話が交互に展開されて、どっちの話かなと混乱することもあったが、「私」のイエスをたどる旅に重なっていて一緒にイエスについて考えているような気にさせられた。 愛とは何か。奇蹟などない。ただ、寄り添うということ

          【読書日記】「死海のほとり」

          【小説】祈り

           ハイビームのヘッドライトに追い詰められるように、道路の右端駐車場のフェンスギリギリに逃げこんだ。  年の瀬の車は何に追い立てられているのかやたらに乱暴で、もう少し明るい時間であっても轢かれそうになったことは一度や二度ではなかった。  また、光が向こうから迫ってくる。フェンスに身を寄せたまま、手袋をした両の手をこすり合わせてふと自分の着ている服に目を落とした。  黒いダウンコート、ダークネイビーのスカートに黒いタイツ。通勤用のバッグも黒。こんなに黒ずくめだと、いつかほんとうに

          【小説】祈り

          【ショートストーリー】こんなはずじゃなかったの

           ご祝儀袋は引き出しに常備している。といっても、先月、部長のお母様のお葬式で香典返しに入っていたのを引きだしに放り込んでいただけだ。  三つ折り財布の中には、不格好に折れ曲がった一万円札が一枚。  今日はこれだけしかない。  反対に折り曲げてしわをのばしながらキーボードを叩き、社内チャットで同僚にメッセージを送信する。 《私は一枚にしたよー》 《総務の子たちも一枚だそうです!》  仕方ない。  今日は帰りにコンビニに寄って、限定品のアニメキャラクターのイラスト入りグ

          【ショートストーリー】こんなはずじゃなかったの

          つれづれ ともだち

          友達が帰郷した。 正確にいうと彼の故郷はここじゃないので、帰郷ではないが、まあ、彼曰く、帰ってきた。 前回の帰郷から六ヶ月余り、しかしついこの間会ったかのような気がしていた。 しかし、そんなことはなく、彼ら彼女らと同じ時間を過ごしていた時から、知らぬ間に数十年が経ってしまっていた。 「全然変わってないね」 挨拶がわりに繰り返されるけど、あの時いた人が居なくなり、居なかった息子や娘たちが加わったりしていて、それはもう目まぐるしくものすごい変化が起こっているのだ。 この週

          つれづれ ともだち

          【つれづれ】The reason why •••

          英語の学びなおしを始めてから3年が経過した。 きっかけは職場の福利厚生を利用することが出来るようになったから。 何人かの同僚が仕事終わりにオンラインで英会話を楽しそうにやっているのを見て、やってみたいなあと思ったのだ。 第一回目のレッスンを思い出す。英語で会話するのが怖くて、聞かれることがわからなくて、とりあえず知っている単語をつないで身振り手振りで、「なんていうかなー」「あれあれ」「えーっと」と答えをなんとかひねり出した。画面の向こうのフィリピン人の講師が困った顔をす

          【つれづれ】The reason why •••

          【短編小説】ここできめたい

          まっすぐに見られていた。 タオルで汗をぬぐっているけれど、視線は外さない。 私を見ている。 後ろを振り返ったり、左右に首を振ったりして 他に誰か居るのではないかと まわりを探してみる。 誰もいなかった。 ——私を見ているんだ。 私は2階の観客席にいる。10列ほどある席の前から5列目の真ん中あたりに座って、体育館のアリーナにいるあいつと、側からみれば、見つめあっていたのだと思う。 全国から50チーム以上が参加している弓道の試合の個人決勝だった。 「目標は夏全国」

          【短編小説】ここできめたい

          【ショートストーリー】Early Autumn

          鈴虫が鳴いている。  チリチリ、チリチリ。 一瞬できた電車の音の隙間に入り込んだ。 カーテンを少し開けた外は、街灯のぼんやりとした明かりが月のない夜を照らす。 虫の声にチリリリリ、チリリリという音が重なった。 静けさが深まってゆく。 私はカーテンをきっちりと閉めてベッドの端に腰掛ける。 ビョン。 マットのスプリングが縮む。 視線の先には、クローゼットから出したマロン色のシャツが掛かっている。少し肌寒くなってきたこれからの季節には、きっと活躍すると思っている。 ベッドの左

          【ショートストーリー】Early Autumn