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【読書メモ】九年前の祈り

 小野正嗣「九年前の祈り」表題作を読了。
 先日、小野さんの講演会を聴講したので、購入してみた。

 地方の泥臭さといたたまれなさ。
 その只中にいると、恥ずかしさに自分は気づいているのだよ、だけど自分はその中の人ではないのよと、なんとか自分の身を律しようとする。
 整然としていない、例外だらけのその世界。
 鈍感さと底抜けの明るさが苛つくほどに羨ましくもあり、自分はそうじゃない、そっち側の人間ではないと思い込もうとする。
 きらきらと柔らかく美しいものがどうしても欲しくて、ようやく、やっとのことで手に入れられたんだけれど、なんだかしっくりこなくて、切り捨てられたり、切り捨てたくなったり、ここじゃない、こうじゃない、という思いがいつまでも付きまとう。
 恋しくもなぜか帰りたくなる場所。
 結局水が馴染むのはここなのだと安心するけれど逃げ出したくなる場所。

「祈り」

 とても崇高な行いのように感じる。
 祖先に祈り、神社で祈り、時には月を眺めながら祈ることもある。
 誰かのために祈っていることを祈りの対象である誰かはそのことに気づかない。

 どうか届きますように。
 願わずにはいられない時もある。それしかないこともある。最後には祈りしかない。
 いつか眠りにつくその時、祈りに包まれることがあるかもしれない。祈りが誰かを優しく包んでくれるかもしれない。
 その時のために祈る。
 祈るとはそういうものなのかもしれない。

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