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【短編小説】同棲相手はスーパーマン

(こちら、過去に別のアカウントでnoteに載せた短編小説の、再投稿となります)

まじでヒく。
今日も何もせずYouTubeばかり観ている。
本人からすると「娯楽の勉強だから」とか、うっとうしい馬鹿みたいな事ばかり言ってくる。
はやく出てけよ。そうじゃなきゃ私にも責任あるみたいじゃんか。
スーパーマンの癖に、敵が現れてもなんもしない。
だから街は滅んでいく一方。
私との愛なんかたいしてなくて、ただYouTubeにはまって、ネトフリでアニメばっか観て、敵と戦って怪我したり死ぬのが怖いだけ、面倒臭いだけ。
まじでふざけんな。私がおまえをやっつけるぞ。

「もういい。この部屋あげるから、私が出て行く。一人になればちゃんと生活もするし、敵と戦う気にもなるでしょ」
「いや、いいよいいよ、今でいいじゃん。あんま色々変えるもんじゃないよ?平穏が一番」
「お前は平穏かもしんねーけど街中めちゃくちゃだろーがよ」
「まあ今までが俺頼みだっただけで、今色々武器とか対策とか開発してんでしょ。俺やられたら結局こうなるんだから、今はこれがいいんだよ」
「まじ屁理屈ふざけんなよ」
そんなクソみたいなやり取りしている時に来たLINEのメッセージは嘘みたいな事が書かれていて、急いで彼をどけてYouTubeをニュースの生配信に変えた。

「先程千駄ヶ谷に現れた魔物は初めて見る形態で、計8本の腕を振り回す度に火炎が放たれ街中が燃え盛りました。
今回の魔物は30分程で星に帰りましたが、その間に大量の死者と負傷者が発生したようです」

千駄ヶ谷は、子供の頃から親友の真美子が、いま住んで暮らしている場所だ。ニュースでは真美子が暮らしている住宅街が燃え盛っている映像が流れた。
涙と嗚咽でそこからの映像は目に入らない。急にこの部屋は命が沈む雑音にまみれた砂場のような汚い存在となり、それは私の生が転がっているからだ。
マムシのようにゴロゴロと転がり、顔から液体を撒き、口と鼻からは煙を掻き消すような大声が出てこのままだと窓ガラスを爆発させてしまいそう。
そんな無防備な恨みの集結が悲しみの形となって暴れ回っている。
そうして声が出なくなるまで疲れてから、彼の来ている服の首側の裾を思いっ切り剥がすよう下に引っ張り、後に残った怒りをお互いの記憶を無くしてやる覚悟でぶつける。

「おまえまじふざけんなよ。
おまえが倒さなかったせいで真美子死んだじゃねえかよ!」
「いやまだ死んだかわかんねえだろ!」
「いや死んだよ!関係ねえよ!燃えてるんだから最悪だよ!おまえのせい、全部おまえのせいだからな!!!おまえが死ね!!おまえが死ねよ!!!くそ!!!!」
「知らねーよ!全部みんな俺任せにしやがって。俺だってやりたくねーんだよ!ふざけんな!」
「まじこんな時に何言ってんの!?自分が悪いってわかってないの?」
彼の顔を思わず叩き、そのまま胸ぐらを掴み引っ張ったり押したりしながら壁に体を押さえ付ける。「ふざけんな!!」また叩く。頭を掴みぐらぐらと動かし、また叩く。叩く。
彼は突然私の顔を叩く。
「は?」
そのまま私の腹を蹴り飛ばし、私はまた床に倒れ込む。血を吐き出しながら。
強い痛みの中、それを上回る力で声を出す。
「てめえふざけんな!暴力振るうんじゃねえよDVだからな」
「おまえが先に振るって来ただろーが」
「それとこれとは別に決まってんだろがよ!」
「そんなのお前の勝手だろ!」
その時、突然窓の外が光り、そして轟音が鳴る。
しかし私達は無視をする。
「わかった。まじで出てって。もう今日で最後、今で最後。出てって。いますぐ出てけよ!!!」
「ああわかったよ。出てくよ」
「もう顔も見ないで。いますぐそのまま出てけ」
「わかったよ」
窓の外がまた光る。今度の轟音は長く、深呼吸を何回もしないと終わらない長さで続いた。
その長い轟音が鳴り止む前に、彼は出て行った。

YouTubeの生配信はまだ続いている。
「ただいま、雷と共に魔物が発生しました。場所は荻窪駅周辺、竜巻を逆さまにしたような三角錐型の突風を両手で操っております」

「え?荻窪・・・ここじゃん・・・」

パソコンに近付き、画面を見る。
「今回もスーパーマンは現れません。荻窪の皆さん、とにかく頑丈な建物の中に移動して下さい。突風によって家々を破壊し、道を歩く人や車も弾き飛ばし沢山の負傷者が既に発見されております」

「うわ、終わった、、こんなアパート竜巻でイチコロじゃん、早く出ないとやばい、死ぬ、、死ぬ、、」

急いで玄関まで行くと、パソコンから声が。

「スーパーマンです!スーパーマンが空を飛んでやってきました!久しぶりです、何ヶ月ぶりでしょうか、今回は救ってくれます、みなさん落ち着いてください、頑張れ!!スーパーマン!!!!」

は!?なに!?あいつなんなの!?
急いでパソコンまで駆け付けて画面を再び見る。

画面には、魔物から出る竜巻を避けながら、真っ黒な球体である頭のような部位を腕で抱え、もう片方の腕でその球体を何発も殴り続ける、彼の姿があった。竜巻で体のあちこちが深く切り裂かれ、血が大量に飛び散る中、口を思いっ切り開け、何かを叫んでいるかのような体の動きをしている。その動きのまま、彼は何発も何発も殴り続けている。

そのよく見た場所は、いつも二人で行っていた、近くのスーパーのふもとだった。


窓を少し開け、顔を出して横を覗くと、すぐそばで、彼と魔物は戦っていた。
竜巻の轟音が激しく、他には何も聞こえない。耳が痛くなるも彼の姿を必死に見続ける。

「スーパーマンは、魔物を殴り続けております。このまますぐに倒せるかもしれません。とりあえず魔物を移動させるのを阻止は出来ています。住民は念の為頑丈な建前に移動、避難し続けてください。
また、スーパーマンは何かを言っているようです。竜巻の音でかき消され、よく聞こえませんが、何かを叫んでおります。私達に助けを求めているのでしょうか、余りの痛みに声が出ているのでしょうか、わかりませんが、私達には見守る事しか出来ません。スーパーマン、頑張ってください!!!」

そんな事を叫んでいる訳がない。
私には、勿論、なんて叫んでいるのかわかった。
良い方向か、悪い方向かはわからない。そのいずれか、どちらだとしても、なんて叫んでいるのか私にはわかった。
私は涙を流した。
苦しかった。
苦しくて息が出来なくなりそうだった。
私も叫んだ。
力の限り、心の底から叫んだ。
彼の叫び声はわかるのに、私の叫び声はなんて言っているのか、私にもわからなかった。
私と彼は、叫んで叫んで、叫び続けた。
息が出来なくなるほど、声が出なくなるほど、涙が出なくなるまで、それは途方も無い程に、叫んで叫んで叫び続けた。
丁度涙が出なくなった時に、魔物は倒れ、竜巻は空へと帰って行き、スーパーマンは片方の腕で目を思いっ切りこすった後、空を飛んで画面の向こうへと去って行った。

チャイムが鳴る。
私はドアを開けるか迷った。
なんだか、全てをよくしてしまうかもしれないから。今までの事は怒りながらも、全てをよくしてしまうかもしれない。
でも、そんな事思っていられない、彼に会いたい、彼の顔を見たい、ドアまで駆け寄って、開けてそのまま彼に抱きついた。
「なんなの!もう!!!」
「ごめん、本当ごめん、本当ごめんな、本当ごめん」
私達は涙を流し、彼の体を苦しめるように抱きしめた。

私は彼に言った。
「生かしてくれてありがとう」
彼は泣きながら、私の唇にキスをしようとした。
私はちょっとイヤだったが、それでも彼の唇とキスをした。
そのまま私達は扉を閉めるのも忘れてキスをし続け、段々と怒りが戻ってくる頃には、週刊誌の人が私達を撮影している姿を見つけ、そこからはどうでもよくなるような大変な日々だった。

同棲していた事がバレた私は、スーパーマンを外に戦いに出させなかった犯人扱いで大バッシング、全てのSNSをすぐに辞めたものの、世間から酷い罵声を浴び続けてる事はテレビからもLINEニュースからもYouTubeからもしょっちゅう流れてきて、私は地方にまで引っ越して出来るだけ誰にも知られないように暮らし始めた。
彼は今では毎回すぐ戦いに出て、その度に見られる時はいつもYouTubeの配信を見て「頑張れー!」と応援している。
彼とは、別れるその時も、辛くなかった。
むしろむかついた。
今まで、お前なんなんだよ、まじで私が犯人扱いなったじゃねえかよ、言ってる事全部正しかっただろーがよ!
世間に半ば強制的に別れさせられた事が何より彼への怒りを膨らませた。
なにこのだせー別れ方!最悪!

真美子が死んだ事は心の深い所に傷を付けたようだ。
私は思い出しては頭を掻きむしり、叫ぶ事がたまにあった。
この叫び声は嫌いだ。
いつまでも嫌いだ。

この事があるから、私はスーパーマンの事をどうしても嫌いになれない。
真美子の事さえなければ、堂々とすっぱり嫌いになれて、もう二度と映像も見ないでやりたかったのに。
本当にやだ。
私はスーパーマンを応援し続けている。
いつまでも。いつまでも。
頑張れよ。スーパーマン。
頑張れ。
頑張れ。
頑張れよ!!!
頑張れ!!!!!!!!!
スーパーマン!!!!!!!!!!!

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