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【短編小説】腕の切り傷を定規で測る

「はい、あなたの左腕の切り傷は3cmね。次」
健康診断で、リスカとアムカの長さを測られるようになって、何年が経っただろうか。
今では、虫歯を持っている人と同じくらいの人数が、手首か腕を切っている。
健康診断で、何故かわからないが、長さを測られる。何故なのだろう。
最初は「意味がわからない」という反発がSNSを中心に盛んに起こったが、「なんとなく自分の精神状態のおさらいが出来て安心する」という理由で、人々はなんとか納得した。
今でも潜在的には納得いってないのだが、人々はもうしょうがないという段階に入っている。

「みそのちゃーん、何センチだった?」
「私は左腕に2cmが3本で、右腕も2cmが4本。いつも綺麗に2cmで切っているみたい」
「うける!私一番長いの5cmだったわ」

「ああ、右肩近くにあるやつね」
「知ってるよね。ノースリーブにするとガンガン出るからね」

私は、特に何か辛い事があって、切る訳ではない。なんとなく、ずっと切ってないし、そろそろ切るか、と思って、切る。
懺悔に近いかもしれない。前に切って、いま切るまでに、してきた悪さの総決算。それで切ってるし、周りのみんなもそんな感じっぽい。
私がいつも2cmなのは、心が安定しているからだろう。こんなに酷い事をした!というのが無くて、冷静にも自分を見ているから、2cmだけ腕を切る。

好きな男が、ある日、右腕に20本くらいの切り傷を作って学校に現れた事がある。
「なんでそんな切ったのー?」って聞いたら
「飼っている犬が死んで、俺が散歩全然連れていかなかったからかもって」
なんだそれ。そんな自分を責めるなよ。死ぬもんは死ぬよ。
私はその右腕に頬を乗せるという、突然空中で腕枕をさせて貰った。
「なにすんだよ!」
「いいじゃんいいじゃん」
私は腕枕をさせてもらいながら、頬をすりすり動かした。ここにある沢山の切り傷。私に一本おくれ。そう思いながら、頬をすりすりとするのであった。
「やめろやめろ!」
「ういー!!」
ザラザラした感触が気持ちいい。
いつかこいつの家で、こんなことをしたいな。
そう思いながら、チャイムが鳴るまで、頬をすりすり、ザラザラ、するのであった。
ザラザラザラザラ。
とっても気持ちいいな。

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