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【ショートストーリー】突然88歳

僕は、つい2,3日前まで22歳だった。
先日バイク事故を起こして、脳死状態になり、
臓器提供意思登録をしていた僕の心臓は、
アルツハイマーの88歳の男性に提供された。

目覚めたらベッドの上で、
妙に身体が痛かった。
でも手も脚も動かせる。
事故に遭って道路の上にたたきつけられて、
意識はあるのに身体を動かせなかった、
あの時とは違う。
あの時は本当に苦しかった。
そしてそのまま意識が途絶えたんだ。

僕は今までと同じ意識のまま、
新たにおじいさんとして生き始めるのか?
「なんだ、おまえは」
あれ、あなたは誰?
「おまえこそ誰だ、わしの身体に入りおって」
え、身体の持ち主? 
アルツハイマーで記憶はないと聞いていたが…。
「なんだと、記憶くらいあるわい」
記憶はあるらしい。
だけど認知機能がうまく作動していないとかで、
話せなくなっているらしい。
ということは、僕はずっとこの老人と、
この身体に同居するのか?
「老人とはなんじゃ。まだ88歳だ」
いや、22歳の僕からしたら、
十分老人なんだが…。

「ところでわしは心臓をもらったはずじゃ。
 なぜ意識までついてくる?」
それは…こっちが聞きたいくらいで…。
「臓器をもらうとドナーに似てくるとか、
 ドナーの記憶がよみがえるなんて話は
 聞いたことがあったが、
 ドナーの意識が身体に入ってくるなんて
 聞いたことないぞ」
僕だってこんなことになるとは、
思ってもみなかった。
今頃、心臓だけ提供して、
天国で優雅に暮らしているはずだったんだ。
なのに老人の…。
「老人で悪かったな」
いえ、あの…。
ところで僕たち、せっかくこの身体で
お会いできたわけですし、
仲よくやっていきませんか?
「望むところじゃ」
じゃ、そういうことで…よろしくお願いします。
「おう、よろしく頼むぞ」
では…エヘン。

「水を…水をくれ」
僕は老人の身体での第一声を上げた。
しわがれ声だったが、なかなかいい声だった。
「はいはい、おじいさん。お水ですね…。
 え、おじいさん? 看護師さーん、
 おじいさんが今、しゃべりました!」
隣にいたおばあさんが慌てている。
老人は何年ぶりに話したのだろう。

とにかく僕の新しい冒険が始まった。
若くして命を落としたのは残念だったが、
老人の人生を再び輝かせるのも悪くない。
僕は新しい人生を生き始めた。
「一人でかっこつけてやがるな。わしもいるぞ」
あ、そうだった。僕たちは…だった(笑)。

©2023 alice hanasaki

後編へつづく👇

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