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【ショートストーリー】遺 書

僕は今夜,死にます。
でもそれは自分の中で死ぬだけです。
本当に死のうかと思っていたけれど,
それはやめました。
それは意味のないことだとわかったからです。
それは苦しみから逃げるだけで,
何の解決にもならない,
自分に負けたことを認めるだけの行為だと,
理解したからです。

自殺するくらいなら,死んだつもりで
どこか違う場所で一からやり直せばいい。
そして僕は明日から
そうして生まれ変わる予定です。

今までの僕は今夜,いなくなります。
明日の朝一番の列車で旅立ちます。
行先はまだ決めていません。
思いついたままに列車に乗り,
行きついた場所で生きていきます。
誰も僕を知らない街で。
もう誰にも連絡しません。
だからもうお別れです。

今までの僕は,何ひとつ
やり遂げることができない怠け者でした。
いつもいつも読みかけの本が何冊もあるような,
そんな人生でした。
それを更に人のせいにして,
怒ってばかりいました。
最低です。

人を非難することに関しては一人前でした。
でもそれは
自分が子どもだったというだけのことです。
人よりも自分は優れていて,自分はどこか違う,
何か絶対にすごい才能がある人間だと,
何の根拠もないのに信じていました。
しかも何の努力もせず。

そうしてふらふらと,
飽きたら次のターゲットに向かって
ころっと方向転換できる,
浮き草のような人間でした。
何かを極められるはずなんてありません。
それを反省するどころか,
自由にかっこよく生きているなどと
勘違いしていた,大馬鹿野郎だったのです。

こんな僕なので,当然一人です。
誰かと長く一緒にいられるわけはありません。
でもそれも友達が薄情だから,
女運が悪いから,家族がわがままだから,
なんていう理由だと信じていたのです。

もう,書いていて本当に自分が嫌になります。
もうこれ以上書くことはできません。
もう死なせてください。
もう,こんな自分がほとほと嫌になったのです。
明日もし僕に会って声を掛けてくださっても,
僕はわからないかもしれません。
もう違う人間だからです。
無視したなどと思わないでください。
人違いだったのだと思ってください。
もう僕は,今までの僕は
この世に存在しないのですから。

今までこんな僕とつきあってくださって,
ありがとうございました。
では,さようなら。
皆さんも,どうかお元気で。

©2023 alice hanasaki

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