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【ショートストーリー】月の見える窓

部屋を探していた時、
東から西まで見渡せる
大きな窓がある部屋に決めたのは、
その窓から月が見えるからだった。

三日月は西の空に見える。
満月は東の空からのぼる。
上弦の月は南の空に見えるから、
東から西まで見渡せる
大きな窓でないとだめだった。

その窓のすぐ下に大きなテーブルを置いて、
私は何をする時もそこにいた。
編み物をする時も、映画を見る時も、
音楽を聞きながら犬とくつろぐ時も…。

満月がだんだんと南の空高く
移動していくのを見ているのも好きだった。
晴れている休日は、
昼間も白い月を見ながら過ごしていた。
在宅の仕事を始めてからは、
毎日起きている間中テーブルにいて、
ずっと月と一緒に暮らしていた。
私はそんな毎日が大好きだった。
月と犬と大きなテーブル。
ずっとそんな暮らしを続けたいと思っていた。

だけど私にはいつしか愛する人ができて、
結婚することになった。
私は泣く泣く引っ越すことになった。
結婚をやめてずっとその家で
犬とともに暮らそうかとも思ったけれど、
私は月との暮らしより家族を取った。

新しい家にも南向きの窓はあったけれど、
窓は小さく、三日月や満月は見えにくかった。
でも私は夫との生活も愛した。
そのうち子どもが生まれ、
子どもが2人に増え、
忙しさに振り回され、
私には月を見上げる余裕もなくなった。
月を忘れたまま日々は過ぎ去った。

3人目の子どもを身ごもった時、
切迫早産の疑いがあって入院した。
病室には南向きの大きな窓があった。
窓際のベッドで安静を言い渡された私は、
久しぶりに一日中月を眺めて過ごした。
懐かしい、月に見守られているこの感じ。
月とともに過ごす毎日を思い出し、
私の目に涙があふれた。

3人目の子が無事に生まれて、
私たちは大きな家に引っ越した。
その家には東から西まで見渡せる
南向きの大きな窓がある。
家を買う時、夫は私の唯一譲れない
希望を聞いてくれた。
私はまた大きな窓から
いつも月を眺めながら生きている。

私はやはり月とともに生きていたい。
子育てで忙しくしていても、
愛する家族に囲まれていても、
自分が大切にしている時間を取り戻したい。
また窓際に大きなテーブルを置いたけれど、
子どもの世話に明け暮れて、
ゆっくりテーブルにつく時間はない。
でも愛する家族がいる。犬も元気でいる。
家族みんなで毎日のように月光浴をして
月のパワーをもらって生きている。

©2023 alice hanasaki

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