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「十五の夏」を15歳の夏に読んで

人生を変えた一冊。「十五の夏」
ある日紀伊国屋をぶらついているとドキュメンタリーか旅行かどのカテゴリーに置いてあってかは忘れてしまったが佐藤優さんの「十五の夏」に出会った。当時私は2ヶ月のオーストラリア留学を控えており、暇な時間に読める本を探していた。「十五の夏」の上巻だけでも433ページ。この一冊を持っていけば十分だろう。そして面白いことに私もその当時15歳。本の帯には「一九七五年、高1の夏休み。僕はたった一人でソ連・東欧を旅行した。」と、書いてある。

『この人は自分と同じ時期に何を経験したんだろう?』

私の好奇心はますます膨らみ出発当日リュックサックに入れた。

オーストラリアで会った留学のコーディネーターに夜はリラックスするのが大事だと言われたのでそのアドバイスにしたがい、毎晩寝る前にこの本を読むことにした。カイロ行きのエジプト航空に乗りこんだシーンから始まる。たまたま隣に座っていた会社の経営者と15歳の筆者は話し、社長はこのソ連・東欧旅行は筆者の人生に大きく影響を与えると伝える。

『自分の留学も自分の人生を変えたりするのかな?』

佐藤さんが現地の人に食事を奢ってもらったり、ペンフレンドに初めて対面で会ったりしている間に私にもたくさんの出会いが会った。この留学とは私の通っていた高校の代表としてオーストラリアの現地の学校にホストファミリーの家から2か月間通うというものだった。クラスメイトはフレンドリーな生徒達が多く、安心して授業を受けられた。ホストファミリーはイギリス系のホストマザー、イタリア系のホストファザー、3人の子供達に囲まれてとても賑やかなものだった。

十五の夏を読み進めていくうちに筆者があまり楽しくない場面にもあっていたことを知った。馬鹿にしてくる外国人にあったり(これは下巻の内容だが)戦争の話で日本人と揉めたりしていた。トラブルが起きるのは旅につきもの。そんな私にもちょっとした出来事が起きた。2ヶ月の留学の後はすぐに日本の学校に戻ることになるので現地の学校の宿題と日本の高校の勉強を同時並行で行っていた。朝起きたら勉強。学校に行って勉強。帰ってきて勉強。しっかりと学生の本分を全うしていた私は自信満々だった。

だが、ある日ホストファザーが言った、「もう勉強やめなよ。オーストラリアではもっとリラックスしなきゃ」。私は困惑し、そして怒りを覚えた。自分は頑張っているのになんてことを言うんだ、この人は!? 言葉にはしなかったが何日か悶々した。だが趣味のアクロバットを本気でやっているホストシスターやもっと自由な時間が欲しいからと転校を辞めた友達を見て疑問を抱いた。

『本当に勉強って1番大事なことなのかな?』

私は教えられてきたことと自分の今やっていることを疑った。自分は勉強が好きなのか?実は求められているからやっているだけじゃないのか?信じていたことが揺らいで、カルチャーショックの意味を体感した。怒りは受容へと変わり、勉強はやめなかったものの子供達と遊ぶ時間を増やした。2か月の留学が終わり日本へ帰国。十五の夏の下巻を購入した。この巻には筆者の帰国途中と帰国後の様子が書かれている。佐藤さんと同じように私も一度勉強が手につかなくなった。それよりも何で自分はここにいるのだろうと考えていた。留学中に輝いていた自分はどこに行ったのだろう。自分自身がしぼんでしまった気分だった。そうして過ごしていると進路選択の時期が来た。ずっと美術を習ってきたこともあり、アート系の大学に進学しようと思った。予備校にも通い、どの大学にしようか考えていると悲しくなってきた。自分はこのまままた輝くことはなく人生を過ごすのだろうか。オーストラリアに帰りたい!そしたらもっと自分の能力を発揮できる気がする。そして大学留学を考え始めた。もう一つの疑問が自分は本当にアートを大学で学びたいのだろうか?ということ。元々好きな時に好きなものを描いたり作ったりするのが好きなのに1日中自分の作品と向き合うなんてできるのだろうか?私は思った、もっと勉強がしたい。まだ知らないことがいっぱいある。頑張るのは嫌いじゃない。考えるのが好きだから哲学が学びたい。

かくして成人後在ロシア日本国大使館に勤務した佐藤さんのように私は大学でオーストラリアに戻ってきた。佐藤さん、あなたの本を読んだ留学が私の人生を変えました。今、家の本棚には十五の夏が上下巻揃ってます。まだ初めて読んだ時から5年も経っていないけれど何度も読み返しています。私の海外に行きたいという気持ちを鼓舞してくれたあなたの本に感謝申し上げます。

私にとっての15の夏空








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