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狂信者とお知らせの話

30分で2500文字。
好きに文章を書いていいときの、私の平均速度だ。


子どもの頃から本を読むのが好きで、小説を書くのが大好きだった。
学生時代の受賞歴も味方して、
私は早々に、自分の筆で食べていくことを生き方に選んだ。


アカツキに転職したのも
前職のゴーストライターじみた業務を辞めてなお
文章を書く楽しさに取り憑かれていたからに他ならない。
「希望してるライター職とは違いますけど、ゲームの会社でメールを返す仕事があります。やってみます?」と聞かれ、二つ返事でアカツキにやってきた。


私はナルシストだ。自分の文章力を、狂信している。


だからお知らせの仕事に携わったとき
お知らせを読むためだけにアプリを起動させたい、と思った。


「お知らせの画面がスクショされてSNSでバズったらすごいじゃんw」と
半ば夢物語のように語ったリーダーの言葉を、全力で真に受けた。
それぐらい面白いものを書く自信があった。


そこには同時に、お知らせは機械的なものという苦々しい前提もあった。
過去、愛するゲームキャラの誕生日メッセージが簡素すぎて残念に思ったことは、私の記憶に新しい。
そのくせ、この仕事に携わるまで、ソシャゲのお知らせなんて読んだこともなかった。
そのぐらいどうでもいいものなのだ。
だってガチャを回してスタミナを消費するのに、お知らせなんて重要じゃない。


つまり、ここで一発やらかせば私の独壇場だ。
誰もやっていないことをやる。先駆する。こんな自由はそうそうない。
吉凶はあとからついてくる。すごい先輩も味方してくれている。
プロデューサーからのGOもでた。
じゃあ、とりあえずやらかしてしまおう。


お知らせを、ゲームに負けないぐらい最高のコンテンツにしてしまおう。


そんな気持ちで、いろんなお知らせを書いた。


ゲームのキャラが寸劇を繰り広げるキャンペーンお知らせ。
あえて日付と簡素な英文だけを添えてアセットの魅力でゴリ押した予告お知らせ。
新商材の魅力を鮮やかに再現するガチャお知らせ。
原作IPの世界観をどっぷり引き出す、施策のお知らせ。


どうしたらより分かりやすく伝わるか。
どうしたらより、ドキドキしてもらえるか。


どうしたら一緒に、この作品を、愛せるか。


全力で頭を使って、全身全霊で命を注いだ。


ときどき、自分の中の悪魔が囁いた。
「どうせお知らせなんて誰も読まないって」
「その表現にこだわって工数使うぐらいなら問い合わせ手伝えよ」
「良い感じに肩の力抜いたら、この作業、もう終わるんじゃね?」
そりゃそうだと理性では思う。
お知らせは売上として目に見えない。View数も取れない。
この仕事を頑張ることの意義は、数字として直接返ってこない。


だから、狂信した。
自分の文章を、自分の仕事を、ひたすらに信じて、研ぎ澄ませた。


300分で2500文字。
そんなペースでお知らせの全工程が完了したら、ほとんど奇跡だ。


3分で2500文字。
文字を読み慣れている人が相手なら、その程度の時間で、閉じられるページだ。


だけどその2500文字は、あなたの心臓を貫くために、私が研いだ槍だ。
みごと心に届けば、あなたの3分は。私の300分は。
永遠の感動になる。


誰かが、お知らせのスクリーンショットをTwitterに投稿した。
「愛が伝わる神運営だよね」と、短い言葉を添えて。


我流はチームの力になり、HOWとして引き継がれた。
今では誰もが書ける領域へ落とし込まれて、私の作ったお知らせは、きっとあなたでも作れるものになっただろう。


今私は、CXの世界を卒業して、シナリオの世界にいる。
私ほどのナルシストが不安になるぐらい、未知が詰まった世界だ。


30分で250文字。
それが今、シナリオ職で私が発揮している力だ。


私は変わらず、自分を狂信し続けている。

この記事は、CXアドベントカレンダー8日目1人目の投稿です。
前の投稿者は「たろちゃん」でした。
次の投稿者「ももちゃん」の記事もお楽しみに!