佐守良日

何もしてたくない人間です。ただひたすらぼんやり空だけ眺めていたい。そうして頭に浮かんだ…

佐守良日

何もしてたくない人間です。ただひたすらぼんやり空だけ眺めていたい。そうして頭に浮かんだなにかを文章にしています。

最近の記事

新生活20字小説③

後ろ手に隠した約束で動けなくなったのね。

    • 新生活20字小説②

      もう戻らないと誓った街が遠くで霧散する。

      • 新生活20字小説

        沈んでゆく、ソコには何かがあると信じて。 参加させていただきます。 やはり、20字って難しい…!

        • 朧月夜に春想う

           けたたましい、そんな表現がぴったりの笑い声。やかましい集団を横目に、歩く。大学生だろうか。その後ろ姿には、怖いものがまるでなにもないような逞しさがあった。 「青春って、愚かだなぁ」  少し前まで、自分もそこにいた。愚かしい時間、小さなことで泣いたり笑ったり。体の奥にあるなにかが、ぎゅうっとなる。そんな時間が、確かにあった。  疲れた体に鈍った思考。繰り返す日々に疲弊して、何かをゆっくり楽しむなんてことは、しばらくしていない。  まさか、就職先が見つからないまま春を迎える

        新生活20字小説③

          灯す、光

           泡になって消えた人魚姫、あのラストに泣いた人や憤った人もたくさんいるだろう。  羨ましい。  そう思ってしまったわたしは、それを誰にも言えずにいた。心配されたり、望んでないアドバイスを受けたりするのは、もううんざり。病んでるとかなんとか、聞き飽きた。 「ちょっと待って、君…」 「…なにか?」  夜の繁華街。確かに、子どもが出歩くには遅い時間帯。腕章をつけたその人は、声をかけたものの迷ってるようだった。 「未成年、だよね?」  見回りの先生だろうか。自分の学校の生

          小牧幸助文学賞 応募作

          汗をかくのが嫌いなのなんて、にべもない。 密やかに浮かぶ真昼の月は、まるで生き物。 まどろみが邪魔をする、昼下がりの知識欲。 月を食んで刻を打つ。わたしは、時間泥棒。 大人になったら分かるわよって、嘘っぱち。 時間よ、止まれ。いつか、が来ないように。 六作品、書いてみました。 まだ期間はあるし、いくつでも応募は可とのことだったので、もしかしたら増えていくかもしれません。 20文字ぴったりがこんなに難しいとは思いませんでした。 しかも、小説なのか怪しいですが…個人的

          小牧幸助文学賞 応募作

          あなたを忘れない

           珈琲と羊羹と、思春期。    僕の祖父は、和菓子がとても好きだった。小さいころから、祖父のやる事なす事に興味津々だった僕は、祖父に倣って和菓子を食べた。  中でも、羊羹は一番好きだった。  久しぶりに街へ出て、観たかった映画を観て、ブラブラと服や雑貨や本を眺める。  昔好きだった作家の新刊と、小さな雑貨屋で見つけた羊羹はまるで運命のようで、子どものようにわくわくした。  外に出ると思い出す。昔好きだったものや景色、その色々。  僕を彩るものは全て、祖父から教わった。大人

          あなたを忘れない

          ほんとのところ

           考えていることが、状況にぴたりと当てはまったとき。それまで思い悩んでいたことが嘘みたいに晴れて、まるで天啓を受けたかのような気持ちになる。    降りてくる。え、何が?  と昔は思っていた。映画のワンシーンのように映像が浮かんで、それを元に書いていく。  とりとめがなく、霧散してしまうものも多いが、出来上がったときは非常に気持ちがいい。映像と一緒に核となる台詞やテーマが浮かんでくると、もっといい。驚くくらいさくさく書ける。まさに、『筆が止まらない』状態になる。風呂、トイ

          ほんとのところ

          まるで、りんごの酸味のような

           りんご箱に入った大量のそれを、まるで親の仇かのように睨みつけて、あたしりんご嫌いなのよと彼女は吐き捨てた。  なんだかどこかで聞いたことのあるセリフだとぼんやり思ったが口には出さず、ふーんとだけ答えてさてこの大量のりんごをどうしようかと、考えを巡らせる。 りんごが嫌いな理由をつらつらと並べ立てる彼女の話は半分聞き流し、できるだけ袋に詰め込んでご近所へ。 「よかったら、どうぞ。たくさんもらったので」 「あら、ありがとう」  そのやりとりを何度か繰り返し、やっと軽く

          まるで、りんごの酸味のような

          はつこい

           底なしの沼にゆっくり、ゆっくりと沈んでいくような感覚を、恋というものに当てはめてみる。  初めての恋。それは、愚かしいほどに透明で美化されてしまった思い出。その彩りをきっとわたしは忘れることができない。 「ちょっと、待ってよー」  まだ幼い、ころころした笑い声。それを見送るわたしは、いつの間にか大人になってしまった。なんの実感もないままに。  大人になったつもりで過ごしていたあの頃、恋をしたのは母の友人の息子だった。連絡手段が今ほどなかったわたしたちは、文通をしていた。

          無題

          「…ずいぶんあっけないもんだ」  長いこといたその場所は、明日からはもう自分の居場所じゃなくなる。勤続四十余年、新卒で入社した会社に定年まで勤めることになるとは。  決して器用な人間ではない。困っている部下に上手く声をかけてやることができずに悩んだこともある。  だけど、なんとかここまでやってきた。いろんなことがあったけど、乗り越えてきた。こんなに長い期間なにかをやり続けたことはない。例え生きるためだったとしても、それは誇れることだと思う。  だからこそ。だからこそ、明日から

          Forever as a child

           そこは、祈りをとらう森。    数日前、僕は街の片隅にひっそりと佇む一軒家を訪れた。当たると評判の占い師が、そこに住んでいるという。占いなんか信じない、なんて言ってる場合じゃなかった。  とにかく僕は、親友を見つけたかった。ある日突然いなくなったあいつは、とても慎重な奴で。こんな風に消えてしまうような人間じゃない。そのはずだ、きっとなにかに巻き込まれてしまったんだ。 「それで、そのお友だちを探したい、と」 「はい」  とにかく、ゆっくりとした場所だった。占い師なんて他に知

          Forever as a child

          最後の、春

           私たちは、息を潜めて生きている。 「…ここにいた」 「なんで見つけちゃうのよ」  私だって、一人になりたいときはある。 「だって、双子だもん」  ずいぶんあっけらかんとした様子の姉に、毒気を抜かれるのはいつものこと。私は、たぶん一生さくらに勝てない。 「さくら」 「そよみ」    同じ顔なのが面白くて、お互いの名前を延々と呼び合っていたあの頃。無邪気でいられた、あの頃。いや、言うほど昔ではないけど。  大人びていたい、まだ子どもだと自覚があるからこその、その思い。 「あ

          最後の、春

          アイデンティティ

           この感情を、恥にはしたくなかった。 「待って、落としてる!」  振り返ると、走って来る男の人とそれを見守るように見つめるもう一人の男の人。手には、私のハンカチが握られていた。あっという間に目の前にきたその人は、随分大きな人だった。 「ありがとうございます」  丁寧にお礼を言うと、どういたしましてとにこっと笑った。昔、家で飼っていた犬をふと思い出す。あの子に似てる、なんて失礼なことを考えて、すぐに振り払う。  そんな出会いを思い出して、笑ってしまう。まさか、こんなに長い付

          アイデンティティ

          遣らずの雨

           わたしには、堅く堅く蓋をして、一生誰にも見せずに墓の中に持っていきたい感情がある。  雨は嫌い。世界が静まるような、時間が止まったような、あの感じがたまらなく苦手。 「はぁ」  吐き出す息がため息に変わる。何をしているんだ。朝、寝坊をしたこと。家を出るとき、ちらりと折り畳み傘が目に入ったけど、見送ったこと。一日の始まりがそんな感じだと、全てが上手くいってないような気持ちになってくる。 「早くやまないかな」  薄暗い思考の名残が雨と一緒に流れてしまえば、少しは好きになれるの

          遣らずの雨

          ひとあわい

           家族って、呪いみたいだ。  私がその男と出会ったのは、胸に落ちたその呪いを自覚した、三十五の春だった。  杉洋平。私は、彼の名前しか知らない。いわゆる、飲み友というやつだ。 「よ」  片手を上げたその仕草のまま、カウンター席の隣に座る。 「どーも」  軽く頭を下げて応えると、私は前に向き直った。特に待ち合わせていたわけでもない、たまに言葉を交わしながら飲むのがお約束だった。 「あ。俺、離婚した」 「えっ?たしか、二回目じゃ…」  以前、話の中に軽く盛り込まれた、俺バツイチ

          ひとあわい