未来も過去も変えられないけど、もっとよく知ることはできる
近年のSF(サイエンスフィクション)は量子力学の発展と共にあると言っても間違いないと思っています。
量子力学のこと詳しく知ってるわけじゃないし、人に説明できるレベルでもないんだけど、
要するに何が言いたいかと言うと、
量子力学の発展と共に
タイムリープ ▶︎ パラレルワールド
っていうフォーマットが確立されたってことです。
僕の好きな作品でいうと、バタフライエフェクトだったり、シュタインズゲートだったりがそんな感じです。
一方で運命論的な物語、つまり、タイムパラドックスが起きないよう確定した未来へ向かっていくタイムトラベル作品は、最近あまり目新しさがないなと感じていました。
今日は、そんな僕が最近衝撃を受けたSF小説「商人と錬金術師の門」について少し話してみようかと思います。
【今日のまとめを先に】
◆テッド・チャン最高。
◆「未来も過去も変えられないけど、もっとよく知ることはできる」
◆オバマさんの帯コメントが素晴らしい。
「商人と錬金術師の門」
今日紹介するSF小説、
それが現代SFを代表する作家テッド・チャンの短編
「商人と錬金術師の門」
去年の冬に日本語版が発売されたテッド・チャンの短編集「息吹」の中で1番はじめに収録されているのがこちらの短編です。
SF界最大の文学賞であるヒューゴー賞をはじめ、ネビュラ賞や星雲賞など、とにかく冠の多い作品ですが、それも納得の超傑作です。大森望さんの日本語訳もめちゃくちゃ良い。
アラビアンナイト調で進んでいく物語の主人公はバグダッドに生まれた商人。
ある時、掘出し物を求めて出かけた市場で、彼は新しいお店を見かけます。その店舗に足を踏み入れると、そこに居たのは年老いた錬金術師の店主バシャラート。
錬金術なんて信じないと言う主人公に店主バシャラートは、「じつは最近、そのお考えを変えるやもしれぬものをつくりました。」そう言います。
そして、連れて行かれた店の奥で主人公が目にしたのは、〈歳月の門〉
門の両側が20年の歳月で隔てられているのだという。
つまり、門をくぐれば20年未来に、もしくは、20年過去へ訪れることができるという代物でした。
主人公は聞きます。
「この〈門〉を、くぐったことは?」
バシャラートは答えます。
「はい。それに、ほかにも大勢のお客さまが〈門〉をくぐりました。」
そして、店主バシャラートはこの門をくぐった幾人かの数奇な物語を語り聞かせてくれるのでした。
ある者が、大金持ちになった20年後の未来の自分に会いにいき、彼のいう通りに物事を進めていった結果、その通りの大金持ちになった話であったり、
ある者がたくさんお金を貯め込んだ未来の自分からたんまりお金を盗んでしまった話であったり。
どの物語でも、門をくぐった結果、未来も過去も何も変わることはありませんでした。
過去に行っても、アラーがお与えになった試練は、変えられない。受け入れなければならないのです、と。
だけど、バシャラートはこうも言います。
未来と過去は同じもの、
どちらも変えることはできませんが、
どちらももっとよく知ることはできます。
幾人かの物語を聞いた主人公がその後、
門をくぐったのか、くぐらなかったのか。
それはぜひ、読んで確かめてみてほしいと思います。
僕が語る数百倍、読んだ方が面白いです。
とにかく、
過去改変が主題の作品に一石を投じ、運命論の新たな見方を与えてくれるこの物語に僕は衝撃を受けました。
過去と未来の事象にパラドックスが起こらないように、整合性を担保することが運命論的タイムトラベルのある種の目標だと思うのですが、
この物語は単なるSFを超えて、もっと人間の本質的なところへ展開していっているんです。
タイムトラベルしたって、物事は何も変わらないけど、あの時知りえなかったことを僕たちは知ることができます。
未来にも過去にも等しく「未知」が溢れているんです。
ちなみに、本の帯にはこんな言葉が載っていました。
人間について理解が深まる。
最上のサイエンス・フィクション。
ー バラク・オバマ -
いや、オバマさん。
僕頑張って長文書いたのに、
そのコメントの方が読みたくなりますやん。笑
オバマさんもおすすめの一冊、
みなさんぜひ、読んで「時間の旅」してみてください。
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