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第21回 星検1級を受験しました

自分が駆け抜けた記録として、合格までの勉強内容をここに残しておきます。


1. はじめに


星空宇宙天文検定、略して星検という検定があります。

コロナ禍などを耐え抜いて第21回を迎えたこの星検ですが、リニューアルのため次回開催は未定という発表がありました。そこで今回、わたしは1級のチャレンジを決意しました。

というわけで2023年3月26日(日)に開催された第21回星検1級を受験してきました。即日公開された解答にて自己採点をしたところ、80点台後半。ボーダーは基本70点ですので、嬉しいことに一発合格できました

追記(2023年4月12日):正式な合格通知をいただきました。同時に、結果概要が公開されました。1級のボーダーは例年どおり70点。平均点は62点、合格率は37%でした。

この記事を読まれている方は、おそらく星検1級に多少なりとも興味をお持ちの方かと思います。なので、検定についての概要や細かなシステムの説明は割愛させていただきます。

リニューアルによって大幅に傾向が変わる可能性もありますが、情報が少ない星検1級の個人的な対策をここに残しておきたいと思います。合格者のサンプルとして、必要な方のヒントになれば嬉しいです。

あくまでも星に興味がある人間が、リニューアル前の確実な一発合格を目指した受験記です。「やりすぎ」、「市販の過去問のやりこみで十分」というご意見も当然あるかと思います。したがって重みづけのため、実際に使用した教材には★をつけました

  • ★★★:必須~超有用

  • ★★☆:有用、得点につながる

  • ★☆☆:高得点を目指すなら

  • ☆☆☆:不要(一応の紹介)

2. わたしについて

まず断っておきたいのですが、わたしは日頃から天体観測もしておらず、天文部に所属していたこともなく、天文ニュースも積極的にはチェックしていない人間です。今のところ、純粋な座学派ということでご了承下さいませ。

なんとなく5年前に第14回を受験し、2級に合格しました。そこからずっと、今回まで1級を受験せずにきました。過去問集もない1級合格には勉強時間がさらに必要で、その時間があれば他のことができる……そう考えて消極的になっていました。

3. 傾向と対策:まず2級レベルまで

前提として、1級には2級までの知識が要求されます。一部の過去問はほぼ同じ形式で使い回されているので、やるべきことは分かりやすいです。

  • 『星検公式問題集 5級4級 新版』★★★

  • 『星検公式問題集 3級2級 新版』★★★

  • ホームページに公開されている過去問★★★

です。2級にチャレンジした5年前と全く同じ一本道。なおこの公式問題集ですが、リニューアル後は新しいものが発売されると思いますのでご注意を。
個人的に感じた勉強のポイントですが、

  • 5級や4級の問題も必ずチェックする

  • 答えにならない選択肢や解説まで読み込む

  • 関連する周辺知識もしっかりチェックする

といったことが重要に思えました。
とにかく、過去問から聞き方を少し変えて出題してくるのが典型的なパターンです。この辺は学校のテストや他の資格の勉強にも通じるものがあるかもしれませんね。

例)「ゼウスがおうしに変身して近づいた人物」が過去問で問われていたなら、ゼウスの変身とアプローチした相手は要チェックです。今回の第21回では白鳥に変身して近づいた相手(スパルタ王妃レダ)が出題されました。1級としては簡単ですが、対策どおりです。

例)「夏の大三角で一番遅く昇る星」が過去問で問われていたなら、夏の大三角の昇る順番と沈む順番、冬の大三角の昇る順番と沈む順番も必ずチェックしましょう。現に、第21回1級では昇る順番の並び替えが出題されました。予想が的中して正解できました。

例)「黄道北極が位置する星座」が過去問で問われていたなら、黄道北極・黄道南極、天の北極・天の南極、銀河北極・銀河南極が位置する星座はまとめておきましょう。今回の1級では活きませんでしたが、よく出題されている上に、これらを知っておくと星図の理解が捗ります(銀河北極があるかみのけ座の周囲には天の川がないので銀河がたくさん見える、など)。

例)流星群の母天体が過去問で問われていたなら、主な流星群の母天体と放射点はまとめておきましょう。これは反省なのですが、今回みずがめ座η星流星群の母天体が出題されました。答えはハレー彗星です。しっかり流星群はまとめていたのですが、当日にド忘れ……4失点です。

また、間違い選択肢の単語も必ず調べておくのが大切でした。
細かすぎるように思える解説の文章ですが、一文も無駄がありません。ほんのわずかでも問題集に記載があれば出題される可能性はあり、逆に言えばダイレクトに得点できる可能性が上がります

以上は、2級までとほぼ共通する星検対策でした。ここまでは、星検の上級を狙う方は最初に取り組むルートですね。わたしにとっては、5年のブランクを埋める作業。2級までの過去問とその周辺知識を勉強するだけでも、1級で解ける問題が少しずつ増えていきます。

4. 傾向と対策:次に1.5級レベル

ここからが本番。1級には過去問集がなく、確実な一本道の対策が存在しません。ですが2級以下も含めて、星検対策には鉄板の教科書が存在します。

  • 藤井旭『全天星座百科』(河出書房新社)★★★

こちらは3・2級を受ける方にも絶大な効果を発揮します。わたしも2級を受ける時に購入しました。1級を受ける方は全てのページに目を通したほうがいいかもしれません(やや事実関係が不安な記述もあるのはご愛嬌です)。実際、1級の開始前にはこの本を確認している人も複数いらっしゃいました。
過去問をやりこんで気づき始めたのですが、過去に出題のない新問であっても、この本から出題されている知識がかなり多いです。これは2級以下も1級も同様です。

例)今回の1級では、はくちょう座に関する文章問題でブラックホール候補X-1が出題されました。これも本書に掲載されていたので正解することができました。

とりあえず過去問を一通りチェックした後は、本書の内容をまとめていきました。他にも中西昭雄『メシエ天体&NGC天体ビジュアルガイド』(誠文堂新光社)★☆☆88星座図鑑」★★☆などは便利でした。88星座図鑑は、1級対策としては星座ごとに詳細星図が見られるのが素晴らしかったです。1級は2級までとくらべて、狭い範囲について詳しく聞かれることが多いので。細かな星図対策としてはWil Tirion『The Cambridge Star Atlas』☆☆☆も買いましたが、あまり見る時間もなく88星座図鑑の方をラストの詰め込みに使いました。

また、星座についての細かな知識をWikipedia★★☆でつけていきました。特に「明るい恒星の一覧」、「メシエ天体の一覧」などのページは確認しました。前者は固有名があるものを、後者は頻出天体や近い場所の連番をチェック。あと有名なギリシャ神話も漏らさず確認。

これは今回ではなく5年前の対策になるのですが、88星座全てのWikipediaページを確認して、明るい恒星や有名メシエ天体、神話などは自分なりにExcelでまとめました。ただ今回は短期決戦だったため、この資料を全て見直して覚える時間はありませんでした。ほぼ使っていません。あとは原恵『星座の神話』(恒星社厚生閣)☆☆☆という本も面白いのですが、星検の得点にはあまり直結しないかなと。

ここまでで、全ての一等星の固有名と場所、主な二等星の固有名、星検によく出てくる有名なメシエ天体と場所、主な星座の略符、星座に関する神話などは(過去問に出ていないものも含めて)おおよそインプットできている状態です。惑星や観測機器や天文学史も、過去問とその周辺知識は勉強しました。高校生向けの地学図録★★★もかなり役立ちました(特に惑星対策)。

さらに星座の赤緯だけでなく銀緯なども、「星座表」★★★「Star Walk」★★☆といったアプリや天球儀★☆☆などを使ってイメージ。特に「星座表」は超有用アプリです。お持ちの方はiPadがいいでしょう。頭の中に、なんとなく天の川を含む天球図を描けることを目指します。銀河座標は2級~1級レベルです。

このあたりまで勉強すると、だいたい2級の過去問で確実に合格できるレベル(新問を少しミスする程度)になり、いよいよ1級に手が届きそうな雰囲気が出てきました。

5. 傾向と対策:いよいよ1級対策

さて。ここまで勉強して1級の過去問を解いてみて、あることに気づきます。そう、合格点である70点に絶妙に届かないのです。
原因は……惑星の動きと宇宙開発の時事問題です。

過去問をやっていると分かるように、星検ではその試験の年の惑星の動きや最近の宇宙ニュースが出題されます。持っている知識から推測して解ける問題は少なく、ここの対策をしないと確実に何問か落とします。
特に1級ではその年の惑星の衝や食のスケジュールがよく聞かれています。考えても解けないので、天体観測が趣味ではない座学派のわたしには鬼門でした……が、もちろん王道の対策が存在します。

  • 『藤井旭の天文年鑑 2023年版』★★★

打開策はシンプル。天文年鑑です。星検が「天体観測を楽しんでいる人」に受かって欲しいのであれば、こちらも「天体観測を楽しんでいる人」になればいいことに気づきました。
初学者のわたしは上の本(藤井旭 版)を使いましたが、きちんとしたスターウォッチ系の情報が載っている本なら他のものでもいいと思います。
これにより、2023年の主な天体スペクタクル(ZTF彗星、惑星の衝、金星食、アンタレス食など)をインプットしました。
ちなみに、実際に出題されるかは別として星検協会のTwitter★★☆はチェックしておいたほうがいいと思います。過去にはツイートされた時事問題も出題されています。今回は天文年鑑にもあったようにZTF彗星がちょうどトピック。

まさかまさかの完全的中。2023年の外惑星の衝の順番が出ました。これは対策していなかったら確実に落としていたと思います。
なお念のため2022年のイベントも確認し、皆既月食中に起きた天王星食もマークしていました。こちらも今回の2級に出ていました。

残すところは、宇宙開発に関する時事問題。こちらは予想すら極めて難しく、日頃から天文ニュースをチェックしていてほしいという星検の強い意志を感じます。
国立天文台やJAXA、NASAなどの関連するニュースや最近の重要トピックをさらいましたが、的中しませんでした。第21回の宇宙開発の問題は、ほぼ過去問どおりでした。

一応、わたしが試験前日にチェックした項目を書いておきます。
30メートル望遠鏡、アルマ望遠鏡、無人宇宙船オリオン、アルテミス計画、宇宙望遠鏡ユークリッド、若田光一さんの帰還、H3ロケット打ち上げ失敗、日本人の新たな宇宙飛行士候補2名、などなど……。
 即日発表の解答を見たところ、今回の3級でアルテミス計画が出題されていました。1級には出ませんでしたが、勉強の方向性は間違っていなかったと思います。

なお星検では、高校~大学レベルの物理や地学といったガチガチの理系問題は出ません。ケプラーの第3法則すら問題文で与えられているくらいなので、(リニューアル後は分かりませんが)数学的な対策は不要かと思います。Pogsonの式など、出そうなものは内容だけチェック。

6. 傾向と対策:純粋なテスト対策

ここまで実際にわたしがやった色々な対策を紹介してきましたが、相手はやはり資格試験。最終的にはテストの傾向を研究するのが重要です。
過去問を追っていけば分かることになるのですが、星検の問題には大まかな特徴があります。

・3月試験 → 冬と春の星図問題、夏と秋の文章問題
・8月試験 → 夏と秋の星図問題、冬と春の文章問題

コロナ禍の関係で、第19回と第20回は試験日がずれていました。そのためパターンを外れていましたが、大雑把には上記の傾向が強いです。もっと言えば、文章題になる星座は神話があるものです。
ラストスパートでは、自分で星図を書いてみる勉強をしました。意外と知識に穴があることがわかります(わたしの場合、とかげ座ややまねこ座の位置を忘れがち)。今回は3月試験でしたので、特に過去問で頻出のオリオン座やしし座、おおぐま座の周辺エリアは詳細星図もしっかり対策(前述の88星座図鑑が便利でした)。メシエ天体や流星群の放射点についても、位置まで問われるのが1級なので念入りに復習しました。

夏も秋も文章題になりそうな星座が多く、満遍なく勉強しました。出題は夏のはくちょう座でした。星図問題では、おおぐま座は対策が実りました。一方、みずがめ座領域の星図が出たのは個人的には予想外……勉強を始めたのが遅かったので、本当にギリギリの戦いでした。

7. まとめ

蓋を開けてみれば意外と余裕の合格でしたが、予想の的中など運が良かったことも大きいです。10回受けて10回受かるレベルではありませんし、天文ファンの方々には絶対にかなわないと思います。知識だけの人間が、傾向と対策を研究してなんとか攻略できた……といったところでしょうか。

今回はリニューアル前ということで、2級を持っていない方でも例外的に受験が可能でした。しかし公表されている過去2回を見ると、2級を持っている人たちが受けてなお合格率は半分かそれ以下。やはり星検1級は難しい試験です。でも、楽しかった

星の知識は、正直言って現代日本を生きる人にはほぼ無駄知識です。星や星座の名前は所詮、人が決めたものであり、それらを覚えていなくても生活はできます。
ですが、そんな無駄こそが自分を含む現代人の多くに足りないものであり、人生を豊かにするものだと思っています。
知識によって世界の見え方が変わっていくプロセスを楽しむことができ、おまけに資格もとれて幸せな結果となりました。

以上、わたしの星検1級対策でした。
これを読まれたいつかのどなたかの役にたてば嬉しいです。


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