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【小説】ママとガール[12]「エンブレム付きのブレザーとグレーのパンツスーツ」
12「エンブレム付きのブレザーとグレーのパンツスーツ」
卒業式の件も済み、あとの心配は受験だけだった。試験を終えたきら子は気が抜けたような気分で、結果を待っていた。
その日、きら子は佳男の店にいた。まだ出ていない試験結果にきら子は苛立っていた。内申は確実にとんでもなく悪い。だが、意欲と実力では誰にも負けない。そう思っていたものの、実際の結果がどうなるか不安だった。どうにも集中出来ず、いつも
【小説】ママとガール[11]「スタッズ付きサンダルとフリンジのミニスカート」
11「スタッズ付きサンダルとフリンジのミニスカート」
季節は春になり、きら子は三年生になった。フリーマーケットにも人出が戻り、また月に二十万円は稼げるようになっていた。きら子は、染色や形作った後にオーブンで焼けば出来る銀細工、シルクスクリーンで作るオリジナルのTシャツ作りにも挑戦し始めた。特にTシャツはタグを襟ぐりにあえて見えるように付けたり、袖や裾にもプリントをするなど凝った細工の評判が良
【小説】ママとガール[10]「ライダースとミニスカート」
10「ライダースとミニスカート」
週末の早い時間の電車は空いていた。きら子は座席の一番端のポールに頭をもたせかけ、窓からの景色を眺めていた。冬の朝の日差しは何処か重たく、それでも家々の屋根をきらきらと輝かせていた。
サッカー観戦は冷えると思ったので、きら子は厚着をしていた。大きなニットのマフラーをして、内張りのついた小さいサイズのライダースにタートルネックのセーターを着た。下はミニスカー
【小説】ママとガール[9]「指が折れそうなくらいに大きいダイヤ」
9「指が折れそうなくらいに大きいダイヤ」
季節は冬になっていた。きら子は、翔太へクリスマスに手製のニットキャップと佳男の店で買ったパーカーをあげた。翔太は、小さな花束とブレスレットをくれた。細いチェーンに星が連なったデザインのもので、父がくれたネックレスと似ていた。その事が、何だか嬉しかった。きら子がブレスレットをつけようとすると、留め金がうまく嵌まらなかった。翔太が、「仕方ないな」と言いな
【小説】ママとガール[8]「サイズが合わない制服」
8「サイズが合わない制服」
今度はお台場に行こう。水上バスに乗ろう。そんな約束をしていたけれど、テストが近いそうで翔太はしばらく忙しいと言ってきた。きら子は途端に暇を持て余した。
ある日。午前中に洗濯や掃除を済ませてしまったきら子は、今まで開く事もしなかった教科書を読み、愕然とした。一年生の時に出来ていた教科が、今やまるきりわからなくなっていた。進路、高校。前に翔太の言った言葉が蘇る。二
【小説】ママとガール[7]「お古の浴衣とアンティークのかんざし」
7「お古の浴衣とアンティークのかんざし」
その頃には、夢子はもうきら子に学校に行けとは言わなくなった。学校に行かずとも明るくなり、外に出ていくようになったきら子に夢子は安心しているようだった。
夢子は、きら子の服を借りては着て、「私の方が似合うからちょうだい」と言ってきたり、給料日にはきら子を連れて近所のダイニングバーに出かけ、「姉妹なんです」と店のスタッフに言い張ったりしていた。「こん
【小説】ママとガール[6]「ストローハットと白いワンピース」
6「ストローハットと白いワンピース」
次の週末。きら子が出店しているフリーマーケットに翔太は午前十一時頃からやって来た。きら子の隣に座り、ジュースを飲みつつ、店の手伝いをしつつ、あちこちの店を回っている。翔太が「俺、ちょっとスニーカー見てくるわ」と言って出掛けてすぐ、服を畳んでいたきら子の頭上から声がかかった。
「きらちゃん、来たわよ」
夢子の声だった。
「久しぶりだわ、フリマに来る
【小説】ママとガール[5]「ぼろぼろのNIKEと赤いTシャツ」
5「ぼろぼろのNIKEと赤いTシャツ」
季節は、初夏を迎えていた。フリーマーケットは、気温がちょうどいい五月あたりが一番活気づく。きら子はその為、日々商品を作り、品物を仕入れる為にあちこちを回っていた。
ゴールデンウィークの大規模なフリーマーケット当日。きら子は三日間連続で出店をする事にしていた。少々大変だが、稼げる時に稼いでおきたかった。
明治公園に溢れる人々は早くも初夏の装いをし
【小説】ママとガール[4]「麻袋のリメイクバッグ」
4「麻袋のリメイクバッグ」
春を迎え、きら子は二年生になった。進級前に担任の教師から連絡があり「学校に来ていない人間を進級させる訳にはいかない」と言われた。だが、「じゃあいいです」と答えると「相談の末、来年は学校へ来てもらうという事で進級させる」という話になった。落第をさせて、いつまでも学校にいられても困るからだろう。きら子はそう思ったが、何も言わずにそれを受け入れた。
きら子は相変わら
【小説】ママとガール[3]「お古のジャージ」
3「お古のジャージ」
季節は、夏へと近づいていた。学校に行った日から、何度か教師から連絡があったが、全て無視した。そして、きら子は家事をし、散歩をし、料理の腕を磨いて日々を過ごしていた。
八月。きら子は夢子と一緒に夢子の母の住む秋田県へ向かった。市内から電車で二時間はかかる不便な場所には、田畑だけが広がり、同じ苗字の人間がごろごろいた。狭い村では誰もが親戚のようだった。
一時間に二本
【小説】ママとガール[2]「星の連なるネックレス」
2「星の連なるネックレス」
次の日。夢子は出社前に一度病院に行くと言って、いつもより早めに出て行った。きら子はいつものように山根と学校に行った。今日も、澤田は来なかった。下校時も澤田はおらず、きら子は山根と二人で誰もいない住宅街の細道を歩いていた。
その頃、きら子と山根は交換日記を始めていた。交換日記を始める際、ノートを渡しながら山根はこう言っていた。
「澤ちゃんには内緒ね」
そ