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【白い落果】第4話 #4 男と女の性 (京子の果実 )

 十二月も半ばを過ぎて、世の中は年末のムードが漂ってきていた。

 京子は、深夜から朝までの勤務を迎えた。

三奈は今夜も元気そうで安堵しながら、部屋を巡回していた。

 木村の部屋に入った京子は、ベッドの上に木村がいないことに気づいた。

懐中電灯を照らし辺りを見たが木村の姿は見えなかった。

 その時、木村が部屋に入ってきた。

急用で公衆電話のある場所に行っていたとのことだった。

 手術後の回復も順調らしい。これなら年末迄には退院できそうであった。

「変りないですか?」

京子は、いつものように尋ねた。

「少し、お腹が痛くてね」

木村は、ベッドに仰向けになると、お腹をさするようにした。

京子は、枕元の小さな灯りを点けた。

木村の顔が灯りで、妙にきれいに見えた。

「どうしたんでしょうね」

京子は、木村のお腹に手を添えて、熱の状態を確かめようと思った。

「失礼しますね」

木村のパジャマと下着をめくり上げ、みぞおち辺りに手のひらを当てた。

「もっと下です」

木村が言った。

京子の手が、おへその辺りに移動した。

「もっと下ですね」

「もっと下? ここらへん」

京子の手が、さらに下へと降りていった。

「もう少し下なんですけど」

 京子の手が止まった。


これ以上は、と躊躇《ちゅうちょ》していたのである。

すると、木村の手が、京子の手を強く握るや否や、容赦なく一気に下へと滑らせて行ったのだった。

「やめて下さい、木村さん」

 京子の手に熱いものが触れた。

そしてまた身体中に、心地よい電流のようなものが走った。

得体の知れない何かが、京子の身体の奥底から湧き上がって来るのだった。


 もう、木村の手を跳ねのける理性も、チカラも京子にはなかった。

あとは木村の成すがまま、されるがままに、暗い部屋の中で男と女に堕ち果てて行ったのである。


 どの位の時間だったろうか。

今まで味わったこともない経験であった。

五体と五感の全てを使い尽くし、満ち足りたものが迸《ほとばし》ってきたのである。

 京子は、あられもない姿のまま、ゆっくりと起き上がり身なりを整えた。

そして、ベッドから降りると、床に横たわっていた白衣に手を伸ばした。

 木村は、ひとつ大きく息を吐き、黙って天井を見つめている。

京子は、両手で白衣の襟を正したり、髪の乱れを収めていた。

そして、木村の枕元の灯りを消すと

「おやすみなさい」

と、耳元にそっと声をかけ部屋を出た。


 そのあと京子はまた、浴室の鏡に自分の顔を映し出していたのである。

今夜の鏡は一段と嫌らしく、穢れているように見えた。

 白衣に包まれた、この内側でうごめくものは一体なんなのだろう。

京子は、うつろなまでの目と対峙しながら思った。


 二つの丸い果実が、白衣の胸を押し上げている。

京子は、そっと手を触れた。


 木村は獣のように、その果実をむさぼっていた。

そして京子自身も、もうろうとする意識のなかで、旬の色香を湛《たた》えた、みずみずしい果実をささげていたのである。


 だがそれは、不完全な果実なのだ。

外見は天使のように白い衣でも、中身は淫《みだ》らな果実だと京子は思った。


 詰所に戻った京子は、何事もなかったかのように、日常業務をこなしていた。

数人の看護婦もいたが、今夜は珍しく静かだという話し声も聞こえた。


【白い落果】第5話 #1 濡れた果実(京子の性)

【白い落果】目次・あらすじ
【白い落果】幻冬舎からの講評 
第1話 1 束の間の休養~温泉へ
第1話 2 束の間の休養~温泉へ
 第1話 3 束の間の休養~温泉へ
第2話 1 病棟の人間模様(難病の少女)
第2話 2 病棟の人間模様(女の葛藤) 
第2話 3 病棟の人間模様(男の欲情)
第3話 1 京子の外来(それぞれの痛み)
第3話 2 京子の外来(婦長の秘密?) 
第4話 1 男と女の性(三奈の告白 )
第4話 2 男と女の性(幸代の告白 )
第4話 3 男と女の性(婦長の蜜月 )
第4話 4 男と女の性(京子の果実 )
第5話 1 濡れた果実(京子の性) 
第5話 2 三奈の旅立ち(京子の選択)


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