第1章【五月のそよ風に】

第1章【五月のそよ風に】(1)

透き通る川底。

小石に小魚が食いついている。

藻をたべているのだろうか? まるで別世界のよう。

春のひざしが降りそそぎ、キラキラとまぶしい。

「バシャッ!」

スイスイ泳いでいた小魚が、水面へ一気に跳ね上がった。

そこは広々とした、緑の河川敷。

「みどり川 緑地公園」と書かれた大きな看板が見える。

そして堤防沿いには、松の老木が立ち並ぶ。

幾つの時代を、見つめてきたのだろうか…。

近くには、小高い樹木の丘や、電車の鉄橋。

「こんなきれいな川を…。なんで、コンクリートで固めなきゃならないの?」

岬 春花は、カメラのシャッターを切りながら、一人つぶやいた。

色白で二重目、肩までのびた黒い髪。

白いブラウスを押し上げるふくよかな胸。

心地良い春風に、髪がさらりとゆれる。

そして春花は…、子供のころ、おじいちゃんと川遊びした事をふと思い出す。

膝まで水につかりながら川底に手をのばし、そっと動かした石の下から、逃げてゆく小さい魚。

とても不思議に思えた。

おじいちゃんは云った。

「森の青葉の、ひとしずくが集まって川になる。

川は水中に棲む生き物たちや、人々の暮らしを支えながら海へと向かう。

そして水は天にのぼり雲になる。

また雨になり森をうるおす。

大切な、いのちの営みだよ。

この自然の営みを、いつまでも大切に守って行かねばならない」

と…。

上着を脱いだ春花は、袖をたくし上げ川の水をすくった。

宝石がこぼれるように、掌から落ちる水…。

無色無臭の水が太陽の光に照らされて、虹色に輝いた。

どうしてこんな素晴らしい水ができるのか。

自然界の神秘さに、春花はうっとりしていた。

と、突然、鉄橋の下で大きな声が。

「…?」

河川敷を渡る鉄橋下には、青いビニールシートや、ダンボールの小さな小屋が並んでいた。

「ホームレス?」

春花の足は、いつしか小屋近くへ。

「何だろう、内輪ゲンカかしら?」

散歩するふりをして、それとなく様子をうかがう。

どうやら声の主は、黒ジャンを着た男(蒼井大介)だった。

ホームレスの男(松井源造)が…。

「あんな会社で働く位なら、死んだ方がましだ」

と言い放った。

もう、六十は過ぎているだろうか。

すると黒ジャンの若い男(大介)が…。

「食べていけないだろう、ここにいたんじゃ…」

と、ホームレスの腕を引っ張る。

「行きゃ~しないよ」

源造は、腕を振り払った。

蒼井大介は、まだ二十代半ばに見える。

背は大きく、つやのある前髪は少し無造作。

でも自然風なパーマに色気がただよう。

眉毛の濃い、二重目のかっこいい青年だった。

春花は、つい言葉をかけてしまう。

「どうされたんですか?」

蒼井大介は、けげんそうに振り向く。

「…?」

一瞬、おどろいたように黙りこんで、春花をジーッと見つめている。

「別に…」

と言いながら、源造(ホームレス)の腕を放す。

古びたシューズに、ジーパンの破れた裾。

やがて傍にある大きなバイクにまたがると、再び春花を見て走り去った。

エンジン音が、青空を突き抜けるように響いた。

春花をジーッと見たかと思うと、あっけなく走り去った男。

「変なやつ…」

春花は目で追いながら、ホームレスの源造に

「大丈夫ですか~?」

と、やんわり声をかけると

「おせっかいな男だよ全く」

と、苦笑いしながら応えた。

近くの小屋にも、ホームレスの姿が…。

「ところで、可愛いお嬢さんが、こんな所へ何しに?」

源造は、やおら立ち上がり河原を見つめながら聞いた。

春花はバッグを肩からおろすと、両手を伸ばして大きく深呼吸。

「ねえ、あそこの藤の花、とってもきれいね!」

堤防沿いの藤棚を指さすと

「あ~、桜が散ると藤がやってくる。

やさしく迎えてくれるんだよ、薄紫色で」

「さっき見てきたの。いい香りがしたわ!」

春花は、フリーライターであること。

これからこの川が、変貌していく事が許せないこと。

こころない業者に対し、工事変更を求めたいこと。

川の生き物たちを守り、人間は自然のシステムに還ること。

…など、かいつまんで話した。

源造は、うなずいて聞いていたが

「あんた、やめといた方がいい。痛い目に遭うよ」

とため息をつく。

振り向いた春花は…

「また来るわね」

と言いながら、ホームレスの小屋にも手を振った。

一人の老人が歩きながら右手を挙げた。

遠くの河川敷広場では母子連れの、にぎやかな声がする。

川面を渡る風が、春花の頬を通り過ぎ、ゆっくりと藤棚の方へと流れたいった。

春花は…

薄紫の甘い香りを思い出しながら、河川敷をあとにした。


 新しくも古くもない軽自動車で、町を走る春花。

「これからどうやって、いけばいいのか?」

思案していた。

「何はともあれ、アオケン組へ一度行って見ようか。

それでダメだったら、西部新聞社の力を借りよう」

この町にある小さな地方紙だが、結構、町の人々には知られている。

記事を載せてくれれば、一石を投じる事にもなる。

町民が声を上げなければ、何も変わらない。

「とにかく協力者を探さなきゃ」

そんなことを思いめぐらせながらハンドルを握る。

「そう言えば…」

ふと脳裏に浮かんだのは、さっきのバイクの男(蒼井大介)。

「あんな会社で働く位なら、死んだ方がましだ」

と言ってたホームレスの男(松井源造)。

「あの二人、どういう関係?」

またも春花の好奇心が、脳裏をくすぐった。

運転中、春花は河川敷の出来事を思い出していた。

「あんな会社…とは、アオケン組のことか?」

「もしかしてあの男は、アオケンの社員?」

「いや、でも…」

「あいつは、一体何者?」

「もう少し聞いておけば良かったかなぁ」

と、今になって後悔した。

「あの男…」

「どこか寂しそうに見えたけど…」

妙に気になった。

が、春花は思い直したように、ハンドルを握り直した。



第1章 【五月のそよ風に】(2)

春花のアパートは、みどり町の河川敷から車で二十分くらい。

そこは名古屋からも、二十分くらいの場所にあり、木々に囲まれた静かな住宅街。

駐車場に着いた春花は、車から降りると、アパートの階段をのぼった。

「フーッ!」

と、ため息をついて部屋に入ると、カバンを放つや否や、ベッドに大の字になった。

六畳二間の部屋には、机にパソコンとFAX、ベッド、テレビ。
 
キッチン・バスルーム・トイレ、ベランダ。

花柄のカーテンや、ぬいぐるみがあり、清潔できちんと整理整頓されている。

春花は高校を卒業すると、京都の大学へ進学。

父母は四国・徳島で教師をしていて、一人娘の春花も教師にしたくて大学へ行かせた。

しかし、春花自身は教師になる気はなく、うるさい親元を離れて、一人暮らしがしたい口実のための進学だった。

大学で自由気ままな生活をおくりながらも、春花の心にはいつも、亡き祖父の思い出がうかぶ。

父母は日中留守だし、帰ってくれば何かと厳しく注意されるので、いつも優しい祖父と遊んでいたのである。

環境問題がクローズアップされてくる中で春花は、将来のすすむべき道は、これしかないと考えるようになった。

大学卒業後、名古屋の出版社へ就職したが、二年後にフリーライターとして独立。

もちろん、テーマは環境問題。

父母の反対、特に父の怒りはすごかったが、母がいつも間に入って支えてくれた。

春花はバスルームで、目をつむり頭からシャワーを浴びていた。

走馬燈のように、子供の頃の思い出のシーンが浮かんでは消えていく。

バスローブに身をつつみ、髪をタオルで巻いて、やおら机に向かって腰を降ろすと、一枚のFAXに目をやった。

「春花へ

先日のお見合いの話、もう一度考え直して頂戴。若くてハンサムで、学校でも評判の先生なの。お父さんも心配しているわ。早く落ち着けって、うるさいのよ。先方さんは春花を気に入っているみたいで、お会いしたいそうよ。 また電話するから…。仕事大丈夫? あまり無理しないでね!
・・・母より」

昨日、母から届いたFAX。

「お見合いなんて…」

と、つぶやきながら机の引き出しへ、放り投げるように、FAXを入れると、ベッドに仰向けに寝ころんだ。


翌日、春花は思い切って、アオケン組を訪問した。

河川敷からは南へ車で、七~八分の所。

広い敷地にビルや倉庫、重機やトラックが何台も並んでいて、その勢いの強さをヒシヒシと感じた。

正面の入り口を入ると…。

ロビー内で最初に、目に飛び込んできたのが、受付嬢の笑顔。

春花は名刺を渡し用件を告げると、パーテーションで仕切られた部屋に案内された。

やがて現れた若い男性が

「おまたせ致しました」

「私、総務の畑中憲悟と申します」

春花は立ち上がって

「フリーライターの、岬 春花と申します。よろしくお願いいたします」

畑中は名刺を渡すと、椅子に腰掛けながら春花の名刺を見る。

「フリーライター 岬 春花」

の下に、

「再生紙名刺」

と書かれている。

「岬さんは、地球にやさしいのですね」

と、畑中の笑顔に

「こんな事くらいしか出来ないのですけど…」

春花は謙遜しながら言ったが、自分の名刺を見て、こういう反応をしてくれる畑中に少し好感を抱きながら率直に要件を述べ始めた。

そして…

「どうしても必要な工事ならば、せめて魚や生き物たちを守る、新しい魚道工事を取り入れるよう、お願いしたいのですが…」

と、河川敷工事の問題点を指摘しながら、パンフレットを渡す。

そして春花は、社長に面会を求めた。

じっとパンフに見入っていた畑中は

「私も岬さんのお考えには賛成です。出来る限りのお力になりましょう」

と、意外な反応。

春花は安堵の胸を撫で下ろし

「ありがとうございます。心強いです、とても…」

「社長がもうすぐ手があくと思いますが、ちょっとお待ち下さい」

畑中は、そう言うと席を離れた。

やがて春花は畑中憲悟に案内されて、社長室へ向かった。


初めての、アオケン組社長との対面に、春花はドキドキしていた。

ソファーに、どっかりと腰を据えた蒼井社長が春花の視界に…。

金縁のメガネに、角張った顔。

やや白いものが混じる髪は、左右に分けられているが、多い方ではない。

が、往年の人生を歩んだ年齢を、感じさせるには十分だった。

それは、壮年期の気骨が感じられ、レンズの奥から時折見せる眼光は、不気味さが漂う。

そんな蒼井社長が目を通していたのは、畑中が前もって渡した春花のパンフ。

畑中が春花と並んで、ソファーに座るや否や

「世の中、そんな甘くはない。お嬢さん」

パンフを放り投げるようにテーブルに置くと、春花を睨みつけた。

威圧するような目線。

だが、こういう態度に出る人には、ムキになるのが春花のクセ。

「お言葉ですが、自然破壊はどこまで進んでいるか、ご存じでいらっしゃいますか?」

春花の鼓動は高鳴る。

蒼井社長は飲みかけの、お茶を飲むと…

「あんたが、どんな記事を書くかは知らんがね。ワシは、アオケン組の責任者として、この会社を守る義務がある。従業員やその家族の未来をも預かっている。死にもの狂いで築きあげてきた、歯車の一つ一つがあるのじゃ。簡単に狂わせると思うか?」

蒼井社長は、立ち上がって机に移動する。

春花が切り返す。

「このままでは、人類があと数十年しか生きられない、との提言もあります。若い世代へのツケを、これ以上大きくしてはいけないとは思いませんか?」

と、春花の言葉に続けるように、畑中が口を開き

「社長、新しい魚道工事に変更しては、いかがでしょうか?」

「君は黙っていたまえ」

社長は、畑中に吐き捨てた。

「お忙しいところ、大変お手数をおかけいたしました。今日は、ご挨拶がてら伺った次第です。あらためて資料など添えて参りますので、その切はどうぞよろしく、お願い致します」

春花は、礼を逸しない様に一応頭を下げたが…社長は、大きな椅子をくるりと回し、春花に背を向けて窓の景色を見る。

春花は、黙って一礼をして廊下に姿を消すと、畑中も春花のあとを追った。

そして、蒼井社長の手が、机の受話器に伸びる。

第1章【五月のそよ風に】(3)

ロビーの奥から足早に歩いて来る春花を、畑中憲悟が追いかける。

蒼井社長とのパイプ役に、畑中は欠かせない存在。

春花は、そう判断したので、つい優しい素振りを見せた。

「岬さん、今度ゆっくり、お会いして相談しましょう」

「今日は突然お邪魔いたしまして、申し訳ありませんでした。またよろしくお願いいたします。」

春花は、丁重に頭を下げ玄関へ。

そんな春花の姿を、ロビーの影で、じっと見つめる男。

黒っぽいブレザー姿に角刈り頭。

男の頬には傷があった。

そして、男は奥へ引き返して行った。

それから、しばらくして…

若い女性が、玄関から入って来た。

ロビーを歩きながら、天井や、周りに目をやる。

そして、ゆっくりと受付嬢に近寄ると

「蒼井社長は、いらっしゃいますでしょうか?」

「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「佐織と言えば分かります」

受付嬢は、受話器をとり連絡する。

やがて

「今、お迎えに参りますので、少々お待ち下さいませ」

と、言う受付嬢に

「分かりやすい場所なのね、ここは…」

女性の言葉に、うなずきながら微笑む受付嬢。

そして、佐織という女性は、奥へと向かった。


数日後。

その日は、どんよりとした雨模様。

春花の車は河川敷から、東の方向へと向かっている。

そして、右折の細い道へ入ろうとした時。

反対車線から猛スピードで、同じ方向へ入ってくる車が…。

そしてその車は、春花の前を走り、水たまりを突っ切って行く。

次の瞬間、道路端を歩いていた老婆(みの)の傘に接触、

そのまま逃走。

傘が接触したことで、老婆(みの)が倒れてしまった。

春花は急いで車から降りて、老婆(みの)の元へ…。

その時…。

反対車線から近づいて来る一台のバイク。

春花が、老婆(みの)を抱き起こすと

「おばぁさん、大丈夫ですか? おケガはないですか?」

と言うと

「あ~、怖い。なんと言うひどい人だろうね、全く」

老婆(みの)は、春花に憮然としながら起き上がろうとする。

すると

「みのさん、みのさんじゃないか~」

と良いながら、バイクの若い男(大介)が、かけよって来た。

春花は若い男(大介)を見て驚く。

なんと、河川敷で出くわした、例の青年だったのである。

「あっ、ぼっちゃん」

老婆は、バイクの男(大介)に手を伸ばしながら言う。

「ぼっちゃん??」

春花は一瞬とまどった。


「ぼっちゃん、この人がね、スピードを出して来て、私の傘を引っかけたのですよ」

老婆(みの)は起き上がりながら、男(大介)に言った。

驚いた春花は

「ええーっ? おばぁさん何言っているの? 私は今ここを通りかかって、あなたが倒れていたから助けようとしたのよ」

むきになる春花。

「みのさん、警察を呼ぼう」

男(大介)は携帯を出すと

「もういいのですよ、ぼっちゃん。跳ねられた訳じゃないから」

老婆(みの)は、腰をさわりながら、春花をジロジロ見る。

ぼっちゃん男(大介)も、春花を見つめると

「あんたは、この前の?」

河川敷で出会ったことに気づいたようだ。

春花はムッとして

「警察を呼ぶなら、さっさと呼びなさいよ」

ぼっちゃん男(大介)は、みのと顔を見合わせると、携帯をポケットにしまった。

「では失礼します。おだいじに」

春花は、憮然としながら車に戻る。

そして、ドアを思い切りバタ~ンと閉めて走り去った。

その春花の車を見ながら、みのは首をかしげ

「ビックリした~、お母様に、よく似てるんですもの…」

大介も、黙って走り去る春花の車に目をやる。

やがて、大介は、バイクを手で引きながら、みのと大きな門構えの家の前へ…。古い様式だが、旧家のような格式が漂う建物。

「雨が降ってるんだから、タクシー呼べば良かったのに」

大介は門を開けながら言った。

「大丈夫ですよ、健康のためにも少しは歩かないとね」

「無理するなよ、もう年なんだから」

みのを、かかえるようにしながら玄関まで送ると

「みのさん、俺出かけるから」

大介は、また来た道をバイクで引き返す。

家の中に入った、みのは、居間のソファーにすわると、腰のあたりをしきりにさすっている。

そして居間の引き出しを開けると、写真盾をテーブルに。

その写真盾の中には、春花そっくりの女性(大介の母)と、小学生くらいの男の子(大介)。

じっと見つめていたが、やがてハンカチで目を覆った。


大介が出かけた先は、町中にある空手道場。

広い道場に十人以上の小学生が、白い空手着に身をつつみ、練習をしている。大介は、一人一人指導して回っている。

「エイ、ヤーッ」

と、力強い掛け声が響く。

一人の小学生の横へ行き、

同じ構えを見せて、足を蹴り上げる。

真似をする男の子。

同じ技を繰り返すと、また真似をする。

大きくうなずく大介。

歩きながら、一人一人指導している。

外は雨。

館内の子供達は額に汗を流しながら、必死に技を繰り出している。


翌日の空は、晴れ渡っていた。

この日、春花が向かった先は河川敷公園。

「もう一度、藤の花に会いたい」

ずっと、そう思っていた。

藤棚の下のベンチで、パンと牛乳の昼食。

うす紫の風が、春花の頬を撫でると

「いい香り」

と、思わず声が…。

ベンチには、年配の夫婦や散歩中の老人。

そこへ若いカップルも。

藤の甘い香りに、みな酔いしれていた。

春花は午後、西部新聞社で、

村上社長と面会することになっている。

「どうなることやら…。ま、当たって砕けるしかないか」

緊張する午後を前にして、今はただ

「リラックス、リラックス」

真上にはシャンデリアのように、ぶらさがる藤の房。

薄紫の優しい色と香りが心にしみてくる。

思えば自分が今この町に、こうして来ていることが

「なんか不思議だなぁ~」

と感じつつ、ふとよみがえる大学時代。

「袖すりあうも他生の縁」

あるサークルで、話題になった言葉。

その意味は

「どんな小さな事、ちょっとした人との関わりも、全て深い縁に基づくものである」

しかし、春花が理解していたのは「他生」ではなく、多い少ないの「多少」

そして、こんな話も。

自分が京都に来たことも、決して偶然ではなく、深い因縁によって必然的に、選んで来ているのだと…。

なつかしい学生時代。

キャンパスで、友人達と語り合った時間が、目の前をゆるやかに流れる。

春花は今、自分がこの「みどり町」

という場所に来たことも

「きっと何かの縁があるんだろうなぁ~」

そう、考えるようにした。

「それも一つの生き方かも知れない」

と…。

食事を終えた春花は、

まだ時間があると見るや、公園内の散策へ。

堤防を降りると、その先は広い緑の河川敷。

初夏の緑地公園は、犬を連れて散歩する人や、ゲートボールを楽しむ老人たち、キャンパスに絵の具をのせている人たちで賑わいを見せている。

のんびりと、マイナスイオンを吸収しながら歩く。

その時、少し離れた場所から若い女の子の笑い声が…。

よく見ると、高校生らしい二人の女の子。

お菓子か何か食べながら、よく喋っている。

「まだ授業中じゃないのかしら、こんな時間に…」

と思いながら春花は眺めていた。

すると…。

そこへ何と、あの大介が通りかかり彼女達に近づいたのだ。

春花は木陰に身を寄せて、じっと様子を伺う。

「お前達、そのゴミ拾って帰れよ」

大介が声高に叫んだ。

女学生の一人が

「ウゼ~ヨ」

と言い返す。

「恥ずかしいぞ、そんなことじゃ…」

と、言葉を付け加えた。

が、二人の女学生はクスクス笑い無視している。

大介は呆れたような素振りで、のんびりと過ぎ去る。

高笑いする女学生を、木陰で見ていた春花は、どなりたい衝動にかられた。

が、グッと押さえ大介の後姿を目で追いながら

「こんな時間に、何してるんだろう? あの男…」

しばらく大介の行方を見つめていた春花は

「何してようが余計な、お世話だよね…」

と思いながら、時計をみる。

第2章【藤の花が咲いている】(1)(2)


小説【藤の花が咲いた】 「もくじ」
「作者について」「あらすじ」「みどころ」
第1章【五月のそよ風に】(1)(2)(3)
第2章【藤の花が咲いている】(1)(2)
第3章【試 練】(1)
第4章【仄かな想い】(1)
第5章【おにごっこ】(1)
第5章【おにごっこ】(2)
第5章【おにごっこ】(3)

第6章【かくれんぼ】(1)
第6章【かくれんぼ】(2)
第7章【わかれ】(1)
第7章【わかれ】(2)
第8章【冬の終わりが春の始まり】(1)
第8章【冬の終わりが春の始まり】(2)
第9章【再 会】(1)
第9章【再 会】(2)【完】

■ 小説【もくじ】


よろしければ「サポート」をお願い申し上げます。頂いたサポートは、クリエーターとしての活動費に使わせて頂きます。(;_;)/~~~