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【溺れる君】ようちゃん

一番最初

昼、夕、夜……あとは朝。
 
「もしかして、兄弟ってこと?」

ビクビクしながらやひこにきくと、賢いですねとまたほほえみかけてきた。

「わたくしが長男、ひるが次男でございます。三男はあなたを助けたようちゃんでございますよ」

ようちゃん……カレが三男か。

すごくおとなに見えたんだけど、この2人よりわかいんだ。

「目の前のチビちゃんより、ようちゃんは若いのでございます」

少しがさがさした声でヒニクを言うやひこはおほほと口をおさえて笑う。

「だまれ、ございますやろう!」

こわい声がきこえてまひるの方を見ると、ガルルとうなっていた。

おねがいだから、ケンカしないで。



 にらみ合う2人にどう声をかけたらいいんだろうと考えていたら、ガチャとドアが開いた。

「ヤーにぃ、マーにぃ、ご飯……」

きえそうなひくい声といっしょにピンク色のおとこの子がドアからひょっこりとあらわれる。

からっぽの目が大きく見開いて、部屋へといきおいいよく入ってきた。

「ちょ、ちょっと! なに2人で味わってんの!?」

俺の大事なゆーたんなんだからとぼくをひょいとひきよせて、まひるとやひこからはなすカレ。

「傷治してくれるって言うから預けたのに……ごめんな、ゆーたん」

 やさしい声。
 あたたかいむね。
 天使のようなほほえみ。

 二重のくりくりした目の左の方に大きいほくろ、たかい鼻のカレがぼくをたすけてくれた人……ようちゃんでまちがいない。

「ありがとう、ようちゃん」

だからぼくもまねをしたんだ。

すると、こんどは顔をあからめて目を見開くようちゃん。

「フォーリンラブ♪」

ちかづいてきたくちびるにびっくりして、ぼくは目を閉じた。



 2回つついたあと、ぼくのくちびるをはさむ。
 
はむはむと右、左と顔をたおすから、変な気持ちになる。

だんだん上がっていくからだの熱をだすためにかるくく口を開けると、ようちゃんの舌が入ってきた。

「ふっ、ふああっ……」

声にならない声がようちゃんの口にすいこまれてる。
 


 「やららわやや」

イミのわからないことばをようちゃんが言うと、ぼくの口の中がほんのりあたたかくなった。

玉のようなものであまくふわふわしたものだったけど、くるしくなってきたから飲み込んでしまった。

でも、そうしたら力がでてきて、元気になった。

チュパッとはなれたら、糸がまだつながっていた。

それをほそい目で見つめながらながい舌でとり、ニッと笑った顔がとてもカッコよかった。

「治療系は苦手だからイヤなのに……はやく着替えてご飯食べよ?」

コテンとしたようちゃんがこんどはかわくて、カレもぼくのお兄ちゃんだってことをわすれそうになった。



 「きがえるまえに、ちゃんとからだみたほうがええんちゃう?」

「やつがれもひるも言われたことはちゃんといたしましたよ」

2人のことばをきいて、ぼくはからだを見てみる。

 さっきまですわれていたはずのおなかにキズがないのはおろか、今までのキズも見当たらない。

 うでも
 あしも。

 
 「顔も綺麗になったよ」

どこから出したかわからないカガミで自分の顔を見たけど、自分の顔だとわかるのに10秒かかったんだ。

「ざんねんやけど、きおくまではけされへんかったわ……せめて、こころのきずだけはとおもうて、とげはぬいたったけどな」

ごめんなぁともうしわけなさそうにあやまるまひる。

「記憶操作は出来ないわけではないのでございますが、代償に地獄のような痛みが全身を焦がすのでございます……そのようなことを貴方様にさせたくなかったのでございます」

お許しくださいませとやひこはふかくあたまを下げる。

「まぁ、これから俺たちと楽しい思い出作っていこうってことだから。よろしくね、ゆーたん」

ハートがつくように言ったようちゃんは右の目をパチンとした。


続き

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