【溺れる君】愛
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すると、ようちゃんのしろくてながい右手がぼくの左のほっぺたをつつむ。
「俺は、ゆーたんとならなんでも出来る……君の過去を忘れさせるのは朝飯前さ」
何回もほっぺたをなでると、左の目もとにクロいもの山が見えだした。
「出来たね、俺と同じもの……もっと好きになっちゃう」
ふふっとうれしそうに笑ったようちゃんはぼくの左のほっぺたにキスをする。
「これで朝日家の兄弟って誰にでもわかるようになったよ」
えくぼを見せて笑うようちゃんに言われて目もとにふれると、しっかりとしたほくろが付いていた。
「にぃにぃ、すごいでしょ♪」
褒めて褒めて! とかわいくなるようちゃんに、弟みたいな気がするぼく。
でも、みとめられたように感じてうれしいぼくはようちゃんにだきつく。
「ありがとう、ようちゃん」
だれかに見られてもいいから、ぼくからもあたたかいものをあげたかった。
「たくさんの愛を惜しみなくあげるからね」
ようちゃんはくるしくなるくらい強くだきしめてくれた。
これが、愛……なんだ。
「君を殺さなくて良かった」
ポツリとつぶやくから、ぼくはであった時をおもいだす。
「朝日家はね、御前家に因縁があるんだ」
ぼくにしかきこえないくらいの声で話しはじめるようちゃん。
「ヤーにぃなんか御前の奴らにオメガだってバカにされて、それに怒ったマーにぃが頭突きして頭に傷を作っちゃったんだ……でも、俺は悪魔の目があるから会わないようにトトとカカに止められててね」
「あそこに行ったのはたまたま……御前家って名乗ったら誰でも良かったんだ」
「だから君に手を掛けたのに、君は抵抗しないし……挙げ句の果てに悪魔の目に触ろうとするし」
顔を上げたようちゃんの目はうるうるしていたし、ほっぺたがぬれていた。
「約束して! もう自分を犠牲にしないって」
こんなにぼくをおもってくれるなんて、シンゾウがバクハツしそうだ。
「約束する、ようちゃんのために」
「アホ……自分のためにしてよ」
口のはじっこを上げたようちゃんはぼくのひたいにゆびをピンッとしてまた強くだきしめてくれたんだ。
おちついたぼくらはまたあるきはじめた。
「そうだ。この服って大丈夫?」
まひるからかりた服だから、変とは言えないんだけど。
いちごのクロいパーカーにキミドリのズボンってなんか目立つなと思うんだ。
「大丈夫だよ、よく似合ってる」
手をはなれにくいにぎり方になおして、よこをあるいてくれているようちゃんの服はこいあおのえりがあるウワギにむらさき色のズボン……すごくカッコいい。
「デートみたいだね」
じょうだんだったのに、目をキラキラさせてほんと!?と言うようちゃん。
キゲンがよくなったようちゃんは手を大きくブンブンして、トントトンとすすんでいく。
「左はカラフルな家が多いけど、右は素朴な感じがするね」
左はいろんな色の家とか四角が3つ上にかさねたような家だったりするのに、右は上がクロで下がちゃいろ、それに木でできた家ばかりだから、左と右でセカイがちがう気がする。
「この街ってイメージは日本みたいで、左は近代的、右は古風なんだって」
今日は近代的な方のお店♪と付け加えると、左を方を見て止まるようちゃん。
三角形で上はむらさき、下はアカの家で、四角いイタには『瞳耳』と書かれている。
「ひとみみ……?」
「ひとみ! まぁ、入ればわかるさ♪」
はなうたをうたいながらキイロいドアを開けて入ったようちゃんについていった。
続き
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