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遠野遥さん『改良』 読書感想

図書館で遠野遥さんの『改良』を借りて読んだので、感想を描きたいと思います。ネタバレ含みます。
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028460/

容姿を気にする心理や、暴力などのシーンも出てきますが、この小説は差別について描いている小説という印象を受けました。

まず、遠野さんの語りの独特な良さがあって、何かというと、あらゆる可能性をいったん考えているということです。例えば、友達が所属しているバンド五里霧中ズのライブに誘われるシーンで、ライブが今週末と来週と再来週あるから見に来てほしいという誘いのメールに対して、主人公が思ったのは『予定を確認すると、ライブには三日間とも行けそうだった。でも私は別に五里霧中ズのファンではないから、どれか一日だけ行けば十分だろう。』という、対象に対しての距離の置き方。感情に対して懐疑的なようにも感じます。自分がどう思ったかに対して、別の可能性も考えてみるという描写が何度か出てきます。

自分がメイクをした時にも『中途半端に人間に似せたロボットのような、何とも言えない気持ち悪さがあった。私はマスクをつけ、顔の半分を隠した。さすがに男性のようには見えなかった。つまり、今マスクで隠れている部分の処理に問題があるということになる』と、メイクに関しても、自分の感情に対する論理をつけています。科学的な論理とはまた違う、感情に対しても点検していくような緻密さが感じられました。

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