「本当の自分」とは

「本当の自分でいよう」と誰かが言っていた。「ありのままで」と誰かが歌っていた。
しかし素の自分って何だろう。

僕は10ヶ月ほど前、ある考え方に出会った。
『分人主義』である。
簡単に言うと「本当の自分は１つじゃない」という考え方である。
これのお陰で少し生きやすくなった。

世間一般的に本当の自分というのは、自分の中に“１つだけある性格”のようなものとして認識されている。
では、本当の自分というのはどの自分を指すのだろうか。
家族といる時の自分だろうか、友達といる時の自分だろうか、恋人といる時の自分だろうか。
多くの人はここから１つに絞ろうとする。
でも、ここで出てくるのが分人主義だ。

それら１つ１つが本当の自分だと捉えるのである。

要するに本当の自分とは何個もあるのだ。
もう少し詳しく言うと、友達だとしても相手によって“自分”は変わっているだろう。
あの子といる時とあの人といる時の自分は全く同じではない。空気感やテンションやコミュニケーションの仕方が少し変わっている。
そして、それらそれぞれも本当の自分である。
誰といるかによって“自分”が少し変わるのは、自然なことなのである。

だから言い換えれば、“本当の自分”なんて元々存在しないのである。

どうやらこの世の中は少し生きづらい。
もし皆が生き上手なら哲学や心理学、宗教なんて発展しなかっただろう。
アドラー心理学で『人の悩みの全ては人間関係』だと言われているように、人は人のことが分からない。
なんなら自分のことすら完璧に分からない。
だからこそ１つだけの本当の自分なんていないと分かるだけで生きやすくなるのである。
本当の自分を出せていないとか、本当の自分でいられるかなとか、本当の自分って何だろうと考える必要はない。
沢山の自分がいていいんだ。
それは裏表とか、二重人格とかそういうことじゃなくて、どれもが自分なのだから。
そうなってくると「誰といる時の自分が好きか」について考えられる。

「本当の自分でいよう」と誰かが言っていた。「ありのままで」と誰かが歌っていた。
「そのままでいいよ」と僕は歌いたい。

参考文献

私とは何か　「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

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読んでいただきありがとうございます！
分人主義については、上記の平野啓一郎さんの『私とは何か』に詳しく書かれています！

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