赤木青緑

小説家、詩人。不条理のハードパンチャー。わたくしなりの小説と詩を遣らせて頂きます。no…

赤木青緑

小説家、詩人。不条理のハードパンチャー。わたくしなりの小説と詩を遣らせて頂きます。noteに作品を載せています。BFC5 1次予選通過。第5回阿波しらさぎ文学賞1次選考通過。

最近の記事

西陽

 西陽の中僕は歩き続けていた。目的はさらばというためだった。光の中という程明るくなく闇に覆われているともいいがたかった。ただいえるのはうっすらと空の輝きを感じていただけだった。橙色の輝きを眩しく感じ、また暖かいとも感じていたが、少し肌寒い風も感じていた。生暖かい光とでもいう感覚か。  老人は海を見ていた。海はまっすぐ平らだった。コンクリートと錯覚する程硬そうな灰色の海が広がっていた。老人は海へ一歩踏み出すと足がじゃぶと入ってゆかず踏みしめるように硬い地面の感触があった。入水自

    • 憂鬱な春

      春は心細い。春の陽気がわたくしの憂鬱を際立てるのです。周りが浮かれていると空怖ろしいものを感じます。地に足を着けなければみな風船のように天高く飛んでいってしまうよ。蒼穹へ吸い込まれ帰ってこれなくなるよ。危ういのです。春は怖ろしい。不安が先立つ。春を越えれば本当の春がやってくる。

      • 春の細さ

        今年の春は細い。みな細いなあと驚嘆している。テレビニュースでも今年は特に細いといっている。細さに気をつけて下さいと。だからみな細さに気をつけるようになった。でもこんなに細い春は初めてでみなどうしたらいいのか分からない。国も指示を出してくれない。みな春の細さに大混乱している。

        • 細い魚(星々140字小説コンテスト佳作)

          細い魚を見た。見たことのない魚だった。細さが際立っており細いという特徴がダイレクトにきた。細い魚としかいいようがなかった。よおく見ると魚ではなかった。細い紙だった。紙を細長く折り畳んだものだった。魚とは似ても似つかなかった。なぜ魚だと思ったのだろう。おそらく細かったせいだろう。

          生きるに尽きる

           余命一年である。  先程、神に宣告された。  ほう、そうか、とうなずいた。  余は驚かなかった。なぜといって、そんな気がしていたからである。有り得るな、と。  特に前兆などはなかった。強いていえば、左膝が痛かったくらいだろうか。  なんとなしに心の準備はできていたのである。もうそろそろではないかと思っていたところだ。そんなとき、曇天の道すがら神とすれ違った。すれ違いざま、ぼそと「余命一年である」と囁かれた。そして余は「ほう、そうか」とうなずいた。ヤクの取り引きのような一連の

          生きるに尽きる

          お誕生日

           わたくしは一九八六年五月二九日八時一五分に生まれました。体重二二六〇グラムの未熟児でありました。親が頑張って育ててくれたおかげで、現在までなんとか生き長らえております。よう頑張ったと思います。わたくしは三十八年生きたことになります。人生の半分は生きたでしょうか。短かったような長かったような心持ちでございます。わたくしはなにごとも遅い人間であります。結婚したのも三六年目のときでした。結婚式は挙げておりませんでしたが、矢張り挙げておきたいと思いたち、三八年目の六月にどうにも恥ず

          きな粉

           なにかを忘れているような気がする。なにかは思い出せない。きっと大切なことだと思う。  こういうのはちょっとしたら思い出すものだ。だから忘れた気がすることを忘れてみよう。もやもやしてても仕方がない。  忘れたことを忘れる。  ちょっと散歩でもしてくるか。  ここはどこですか?  道だ。  道を歩いている。道は舗装されコンクリートで歩きやすい。舗装されてなくて砂利道だったらじゃりじゃりして煩いと思う。  ぼんやりしてた。  なにも考えられない。  なにも考えたくない。  記憶障

          チョコレートの香り

           チョコレートの香りがするときは調子がよい。そんな気がした。  ふと、地面を見ると土の色が茶色だ、と思った。チョコレートを連想し匂いまで香った気がしたが、さすがにそれはなかった。調子はすこぶるふつうである。  目線を横に逸らすと鬘を被ったような模様の猫がいた。白毛の体に鬘みたいな部分は黒髪である。体型はふっくらとしておりふてぶてしさを感じる。すこぶるかわいい。  猫という生き物は無類にかわいいものだ。ダ・ヴィンチが完璧な生き物といったとかいわなかったとか。  カツヲ。  無意

          チョコレートの香り

          ウルスラの教え

          辞めても遣つてしまうこと を続けてゆく もう遣りたくないなら辞めればいい また遣りたくなつたら遣ればいい あなたはそれを遣り続けるのだから それがあなたの遣ること いつでも遣りたくなったら遣ればいいよ

          ウルスラの教え

          魔女

          箒に乗りくうに舞う 姿は陰 見えない黒ずくめ ひらひらと舞う 星が迸り 一条の黄色となり 肩には黒猫 聲が消え 本物の魔女になる

          風を食べる

           風が吹いている。鳥山さんは風を食べた。美味しかった。心地のよい味がした。苦くはなかった。  きっかけは風を食べると風のように足が速くなると先輩にいわれたからだ。鳥山さんはとっても足が速くなりたかった。先輩は憧れの人でとっても足が速かったからなんでも先輩の真似をした。先輩が風を食べて足が速くなるといったから鳥山さんも風を食べ始めた。  先輩は五十メートル走を五秒で走った。有り得なかった。周りからなんでそんなに速く走れるの?と訊かれ、いつも風を食べているからと答えた。周りはそん

          風を食べる

          笑顔

           最後は笑顔だ。  とはいうもののそんなに上手くゆくわけがない。この世は厭なことに満ち溢れている。腹立たしい人間に限ってのうのうとのさぼって生きている。そんな人間ばかりだ。  腹が立って仕方がない。なぜこうも上手くゆかないのだ。不幸の星の下に生まれてしまった。どう足掻いても厭なことばかり起きてしまう。こうも上手くゆかないなんておかしい。  期待してるからいけないのかなと思う。凄く期待していると残念なことが多い。ちょっとしたことが眼につく。粗が見えてしまう。期待してない方がいい

          原点回帰

           どこの星のかも分からないカレーを食べた。初めは美味いのか不味いのか見当もつかなかった。  セメルは兎に角喰ってみた。  うん? 辛えー! 臭えー!  独特の香辛料が入っておりセメルの口に合わなかった。  ゲップをする度に苦手な味が口中に広がり最悪の気分だ。  臭みを取るためにAIに訊いても分からなくて、ニンニクの臭みの取り方で試してみる。ウーロン茶、緑茶、牛乳、蜜柑、林檎を試してみるも一向に臭みが消えない。  食べ物で失敗するとなにもかもやる気がなくなる。  くそう! お口

          今を生きる

           わたくしには記憶というものがございません。 「今」しかありません。  何も覚えられないのです。 「今」の連続で生きております。  温い部屋でわたくしは寝っ転がっております。とても清潔な部屋です、照明は明る過ぎないようオレンジ色の灯りです。  ここで、わたくしには記憶というものがございません、なのに、この文章がどう書かれているか、疑問に思われるかもしれません。  この文章は、わたくしが書いておりません。  代筆です。小宮山さんに書いて頂いているのです。と書いているのが小宮山で

          今を生きる

          はて

           あの空が究めて赤かったとき、わたしは泣いていました。空が赤かったからです。他の理由は特にありません。色に反応したのです。赤色に。赤色というのはわたしを泣かせます。一般的には泣く色ではないかもしれません。空が赤いということは夕焼け?朝焼け?でしょうか?正確には分かりません。もしかしたらどちらでもないかもしれません。太陽が昇るとき、太陽が降りるとき、なぜ空は赤くなるのでしょうか?人は美しさを感じます。空が赤いと美しいのです。しかし、わたしが見たのは、太陽の昇り降りではなかったと

          お部屋探しは十生

           よろこびの舞を舞ったのはいつぶりだろう。  家にジッショーくんがやってきたからだ。  吉行はSNSでなにげなくなにかをポチっていた。それはジッショーの公式アカウントでポチるだけで一名にジッショーくんが当たって、貰えるというものだった  吉行はそんなことは頭の片隅にもなくとっくに忘れていた。スマホがピロリンと鳴り、ん、と思ったら、ジッショーくん当選しました、とあった。ジッショーくん当選?  ジッショーくん当選!  吉行は平板としたなにもない日々にどっぷり浸かっていた為、なんの

          お部屋探しは十生