お誕生日

 わたくしは一九八六年五月二九日八時一五分に生まれました。体重二二六〇グラムの未熟児でありました。親が頑張って育ててくれたおかげで、現在までなんとか生き長らえております。よう頑張ったと思います。わたくしは三十八年生きたことになります。人生の半分は生きたでしょうか。短かったような長かったような心持ちでございます。わたくしはなにごとも遅い人間であります。結婚したのも三六年目のときでした。結婚式は挙げておりませんでしたが、矢張り挙げておきたいと思いたち、三八年目の六月にどうにも恥ずかしがり屋のため親族のみで行うこととしました。もう少しで結婚式というわけでございます。今、準備に追われております。妻ともども一生懸命準備しております。なんとかよい式にしたいと思っております。体重を正確に覚えているのは体重米を親に贈るからであります。自分の生まれたときの重さのお米を贈るのです。職場の上司などに訊いてみますと、結婚式を挙げた人もおれば挙げてない人もおり、やらなくてもいいという人もおればやった方がいいという方もいます。やった方がいいという方の意見を聞き、生涯レベルで記憶に残り感銘を受ける程だといっておりました。矢張り結婚式というものは生涯レベルのイベントなのでしょう。わたくしはやりたいと決意し唐突に妻に結婚式しようといいました。わたくしたちはずっとやるかやらないか迷っていたので、わたくしがやるといったら妻は大変驚いておりました。不安とよろこびがない混ぜになっておりましたが、どうでしょう、よろこびが勝っているでしょうか。不安とよろこびは表裏一体のものですので、不安だからよくないということはありませんしよろこびだといっても油断してはなりません。わたくしは静かに爆発しております。テングザルのように無音で叫んでいます。
 わたくしは二日前にケーキを食べております。苺のホールのショートケーキでありました。お誕生日おめでとうの文字と名前の入ったチョコレートつきでありました。蝋燭は三八本も立てれませんので、三と八の形をした蝋燭が立っていました。今はそういう蝋燭があるのですね。妻が蝋燭に火をつけ電気を消してハッピーバースデーの歌を歌い、ディアーわたくしーでふーと息を吹きかけ火を消してパチパチでありました。わたくしは大変よろこんでおりました。よろこびが出にくい質なのでよろこびが少ないように思われがちでありますが、内心大変よろこんでおるのです。妻が動画を撮ってくれたのですが、本人はよろこんでいるのによろこんでいないように映っている気がして心配です。大丈夫です。よろこんでおります。二日前だったのは、ケーキを買いにゆけたのが二日前だったからです。妻は自分は当日がいいといっておりましたが、わたくしは二日前でもいいのです。二回も祝って貰えるからです。事前にプレゼントも間に合わないといわれましたが、プレゼントの日も合わせれば三回も祝って貰えることになります。大変お得です。当日だって妻は早起きしてくれてわたくしが会社にゆくのを見送ってくれ、わたくしが電車で寝ているとぴろんとラインがきまして、八時十五分に妻からおめでとうのラインスタンプ連打でした。お祭りでした。わたくしは大変嬉しかったのであります。ちょっとしたことですが、おめでとうのラインがくるのは嬉しいものなのです。わたくしは頭がぼんやりしていて気づいていなかったのですが、お昼に妻とのラインを見て、ふと時間を見ると八時十五分にトークがきていたことに気がつきました。八時十五分はわたくしの生まれた時間であります。妻は粋なことをしてくれました。見習わなければなりません。
 お誕生日前には美味しいしゃぶしゃぶを食べ、妻の両親とお寿司も食べ、たらふく美味しいものを食べております。豪勢な食事の後にお誕生日ケーキもありました。しかしわたくしたちは結婚式を控えておりまして準備を一生懸命やっておるのです。特に妻は女性ですので準備が大変なのであります。そこへきてわたくしのお誕生日が重なってきてしまったので豪勢な食事の後にケーキもあったのです。準備のためにケーキは控えていたのですが、ケーキというものは、生クリームというものは大変美味しいものなのですね。お口がよろこんでおりました。最近は食後のデザートなどなく準備しておりましたので、ケーキを食べるのを忘れて夜の一二時頃に食べてしまったのです。しかもホールケーキですから一日で食べきれず、二日ケーキを食べたのです。二日とも夜の一二時頃でした。苺と生クリームたっぷりのケーキを夜中に続けて食べてしまったのです。わたくしたちは準備をしなくてはいけないというのに。特に妻は準備を頑張っておりました。しかしこのケーキのカロリー悪魔が準備を台無しにしてしまったのです。お分かりですね。準備とは体の準備です。二日続けて夜中に苺と生クリームたっぷりのケーキを頬張ってみてください。次の日の朝、数値の出る台に乗りますと生まれたときの体重の三三倍でした! 母上、父上、わたくしはあんなに未熟児だったのにここまで大きくなりました! ありがとうございます!
 大丈夫です。わたくしたちは諦めておりません。しっかりと気を引き締め、準備を整えてゆきます。
 

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