はて

 あの空が究めて赤かったとき、わたしは泣いていました。空が赤かったからです。他の理由は特にありません。色に反応したのです。赤色に。赤色というのはわたしを泣かせます。一般的には泣く色ではないかもしれません。空が赤いということは夕焼け?朝焼け?でしょうか?正確には分かりません。もしかしたらどちらでもないかもしれません。太陽が昇るとき、太陽が降りるとき、なぜ空は赤くなるのでしょうか?人は美しさを感じます。空が赤いと美しいのです。しかし、わたしが見たのは、太陽の昇り降りではなかったと思います。美しいとは感じませんでした。美しさからきた泣きではありませんでした。ではなぜ空が赤いと泣いたのでしょうか?空が赤くて美し過ぎて感動の泣きなら分かります。感動の泣きではありませんでした。泣いているときに空を見たら赤かったのでしょうか?泣きが先で空を見たのがあとだったのでしょか?それでどっちが先か分からず空を見て泣いたと勘違いしたのでしょうか?泣いたときに空を見たのか、空を見て泣いたのか?もしかしたら恐怖の感情があったのかもしれません。恐怖からくる泣きだったのかもしれません。
 緑色の風が吹き荒び、わたしの泣きは涸れました。先程までの泣きが嘘のようです。からっからに泣きが止まりました。風が緑色だったからです。風で乾いたのではありません。色が泣きを止めたのです。緑という色は泣きを止めます。赤子が泣き止まなかったら緑色を見せてみて下さい。泣き止むと思います。
 山が青くて、歌を歌い始めました。るるら、るるらと歌います。鳥が反応しぴーぴーいっております。慌ててハモります。虫達も歌い始めます。おそらく青色が歌わせるのでしょう。やがて合唱になりました。山が一層青深くなり、音が響き渡ります。フィナーレを迎えると、音が消えました。わたしだけが取り残されアカペラでソロパートを歌い続けます。どれ程歌い続けていたか分かりません。気づいたら空は赤色から茶色になっていました。夜なのでしょうか?夜は紺色ではなかったでしょうか?しかし今わたしに見えている空の色は茶色です。わたしはおかしいのでしょうか?いやおかしくないはずです。色の方がおかしいのです。色が間違えてしまったのです。うっかりしてたのでしょう。色だって間違えることはあります。そんなに強く責めてはいけません。色が違うことは重要なことでしょうか?色が違うからといって責めますか?色など違っていてもいいではありませんか。あなたは空の色が決まっていると思っているのですか?あなたが見た空は青色かもしれません。しかし私に見える色は赤です。それは太陽の昇り降りだからだといいますか?では茶色の空とはなんなのでしょうか?いやわたしもおかしいと思ったことはあります。が、どこかの国では空の色は紫色だといいます。そうだ。火星の写真を見たことがあります。確か空は茶色でした。わたしは火星にいるのかもしれません。
 ここの海の色は黄色です。明るめの黄色です。黄色を美しいと見る人もおれば醜いと見る人もいます。色に美醜などないはずなのに。綺麗な色、汚い色などといいます。そんなこといっていいのですか?なんですかそれ?美的感覚もそれぞれです。汚いとお思いになる方もおります。しかし汚いといわれた方は不快な気持ちになってしまいます。余り汚いといわない方がよいのではないでしょうか。
 わたしは海に飛び込みました。海の中に入ると何色かはもう分かりません。すべての色が合わさった色なのかもしれません。すべての絵の具を混ぜると黒になります。黒はすべてを包み込みます。今ここは真っ暗ですか?いえ、今わたしが見てる色は黒ではありません。では何色ですか?はて何色なんでしょう?

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