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テイラー・スウィフトと英米文学 ①『ロミオとジュリエット』

読書好きの方ならば、誰しもお気に入りの作品との忘れられない出会いがあると思います。

「たまたま表紙のデザインが可愛くて読んでみたら人生変わった」とか「友達に貸してもらったあの本で世界観がひっくり返った」とか。

私の場合、人生を変えた作品との出会いのいくつかはテイラー・スウィフトがキューピッドになってくれました。私が英米文学の沼に沈んだ責任の一端は彼女にあります。

そこで、テイラー・スウィフトと関わりのあるイギリス文学・アメリカ文学作品の紹介、楽しみ方や、それらの中で個人的におすすめの訳書などを紹介していこうと思います。

数回に分けて書いていこうと思います。
名作揃いなので、もしよければ気になった作品だけでも見ていってください。全体像はこんな感じです。

・Love Story より​ ウィリアム・シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(と、Elle UKエッセイ)
・Love Story より ナサニエル・ホーソーン『緋文字』
・Instagramより C.S.ルイス『ナルニア国物語』
・This Is Why We Can't Have Nice Things より F.スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』(と、飼い猫ベンジャミン)
・Instagram より F.スコット・フィッツジェラルド『楽園のこちら側』(と、Vogueインタビュー)

① Love Story より​ ウィリアム・シェイクスピア 『ロミオとジュリエット』

2009年にリリースされ、テイラーの知名度を一気に上げたLove Storyという曲は、悲劇の恋人ロミオとジュリエットがハッピーエンドを迎える世界のお話です。

有名な物語ですが、軽くあらすじを。
ロミオとジュリエットはそれぞれ敵対関係にある一族の跡取りです。
本来出会ってはいけない二人ですが、ロミオがこっそり忍び込んだパーティーで二人は恋に落ちてしまいます。
互いに親の決めた許嫁もあり、応援されるはずがないことを知る二人ですが、偽物の毒薬を使い駆け落ちすることに。
なんやかんやのすれ違いや勘違い、伝達ミス、思い込みの連鎖により、計画はすっかり狂い二人は悲劇の死を遂げます。

『ロミジュリ』の楽しみ方

個人的に『ロミオとジュリエット』のおすすめの楽しみ方は、
これが「真実の愛」なのか、
初めて両想いの人ができたティーンエイジャーにありがちな「思春期大暴走の初恋」なのか、
どっちだろうと考えながら読んでみることです。
なんせジュリエットはわずか13歳。ロミオもおそらく14-16歳です。
若き二人が死を覚悟するほどに互いに燃え上がれた原因は、果たして運命でしょうか、それとも思春期ホルモンでしょうか。

このくらいの歳の時に好きな人ができて舞い上がった経験ありません?
「絶対結婚する!」とか思っちゃいますよね、つい。
親に「まだ若いんだから(笑)」とか言われてムキになっちゃいますよね。

もちろん、二人は確実に恋に落ちてはいるし、きゅんと来る台詞もたくさんあります。
ジュリエットの「ああ、ロミオ!どうしてあなたはロミオなの?」という台詞が有名ですが、このシーンのジュリエットは本当に可愛くて、肩書きや名前にとらわれずに一目惚れをした彼女にとっては恋人の命自体が愛しくてたまらないのだなとわかります。

ロマンチックなロミオとリアリストのジュリエットの対比もなかなか面白いです。
最初のほうこそ、年上男子のロミオが頑張って口説いていてジュリエットも浮かれているけれど、互いに気持ちを確認して駆け落ちしようとなってからは、一気にジュリエットが冷静になって主導権を握ります。
セリフの量が格段にジュリエットの方が多くなるし、あれこれ計画の段取りを進めるジュリエットに対してロミオは相変わらず「ああ...可愛い...」ってデレデレしっぱなしです。あんまり役に立ってない。可愛い。

テイラーの歌詞

当時高校生のテイラーは悲しいエンディングを書き換え、Love Storyの中では二人はめでたく親の祝福を受け結婚しますが、この曲を聴いていていつも面白いなーと思うのは、そんな二人の若さや未熟さに焦点を当てているところ。

”But you were Romeo, you were throwing pebbles
And my daddy said stay away from Juliet"

「パパがこう言ってた」「ママはこう言う」とか、初めて出会った時に石ころで遊んでいたロミオとか、二人の幼さからの成長が微笑ましく描写されていて素敵だなと思います。
テイラーも学校で「二人の未熟さ」についての授業とか受けていたのかな、とか。

おすすめの訳は、ちくま文庫から出ている松岡和子訳『ロミオとジュリエット』です。


【おまけ】 Elle UK より ウィリアム・シェイクスピア『ソネット集』

Elle UKの3月号に、テイラーがポップ・ミュージックについてのエッセイを寄稿しました。

その中で少しだけシェイクスピアに触れていたのでそちらも紹介します。

"And yet the ones I think cut through the most are actually the most detailed, and I don’t mean in a Shakespearean sonnet type of way, although I love Shakespeare as much as the next girl. Obviously."
https://www.elle.com/uk/life-and-culture/a26546099/taylor-swift-pop-music/

「(ポップ・ミュージックは万人受けというけれど)一番共感を呼ぶのは細かなディテールのある歌詞だと思う。シェイクスピア風ソネットのような描写とはまた違う詳細さ。もちろん私もシェイクスピアは大好きだけれどね。」

まずシェイクスピア風「ソネット」ってなんだ、という話ですが。
ざっくり言うと、14行で書いた短い詩のことをソネットと呼びます。
今でこそロミジュリやハムレットなどのお芝居で知られるシェイクスピアですが、実は生前は詩人としても有名でした。

彼のソネットを集めた『ソネット集』という本があるのですが、これがまたロマンチックの宝庫なんです。

テイラーの言う「シェイクスピア風ソネットの詳細さ」がわかるようなものを少し引用すると、ソネット130番に主人公の恋人の描写があります。
当時の美の王道といえば金髪に白い肌、輝く瞳、赤い唇といった特徴を持った人ですが(テイラーだ!笑)、彼の好きになった人はその正反対、という内容のソネットです。

「僕の恋人の瞳は太陽とは似ても似つかない
彼女の唇よりも珊瑚の方がはるかに赤い
雪は白いけど、彼女の胸は黒ずんでいる」

と、こんな調子で進んで、

「でも天に誓って彼女は美しい
適当なお世辞で讃えられるどんな女性よりも」

と結びます。かっこいい。
確かにテイラーのスタイルとは違うかもしれないけれど、ストーリー性のあるロマンチストという点では似ているような気もします。

Elle UKでは、個人的な名前や地名を歌詞に入れることについて話題が展開していくので、そういった固有名詞は入っていない、いわゆる「万人ウケ」の恋愛詩という意味で「シェイクスピア風ソネット」と書いたのかなと解釈しています。このソネット集でも、想い人の美しさは詳細に伝わりますが、肝心の名前や正体は最後まで明かされません。

こちらは文春文庫から小田島雄志訳『シェイクスピアのソネット』が出ています。サク読みできるのでおすすめです。




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