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忘れられない、あるサハリン青年の目

「ロシア兵」という言葉を聞けば、思い出す人がいる。

別にかの国の兵隊に知り合いがいるわけでもなんでもない。
ロシア極東のサハリン(樺太)で、たった一度、ほんの30分程度会っただけの青年のことだ。

その青年は、日本人の女性と結婚した白人のロシア人。その当時、新婚さんだった。
名前も忘れたぐらいなのに、なぜ、彼のことを覚えているかというと、彼の「目」が忘れられなかったからだ。

遠くをぼーっと見つめるような目。何かに怯えるような目。私やその場にいた他の人とは、ほとんど会話しなかったように記憶している。話しかけると、一瞬にこりとするものの、すぐに顔の筋肉が硬くなり、また遠くを見つめるような目に戻る。

写真がないので、読者の方々に彼のイメージをしてもらうとすれば・・・”優しさの塊”のような好青年だ。少しぽっちゃりしていて、とにかく優しそうで、愛されて大事に育った感じ。勝手な想像で言うと、スポーツなどとは無縁な感じに見える青年だった。

部隊での新兵いじめ

その彼が、なぜ、あんなぼーっとした、虚な目をしていたのか。

彼の奥さんによれば、今ちょうど徴兵にとられているところだという。
入隊中に体調を崩して入院したものの、身体上の症状はないので退院し、また部隊に戻らされる、と。確か、私がお会いした日の翌日か何か、本当にもうすぐにでも戻らされるとのことだった。

そして、その奥さんが、他の日本人に、少し小声で、夫にわからぬよう日本語で話していたのが、部隊での”いじめ”のことだった。どうやら、彼はひどい新兵イジメに遭っていたようなのだ。そして、入院というのもそれと関係があるようだ。しかし、身体的に問題がなければ、心がいくら怯えていようが、すぐに部隊に戻らなければならない、と。奥さんはそのことが辛くて仕方なく、悩みを聞いてもらいたい感じだった。

その小声の会話を聞いた私や他の人は、彼のことが心配になり、色々彼に優しく接するように話しかけたが、前述のように、彼は、もう心が限界だったようだ。

ウクライナ侵攻 ロシア兵たちの顔は

彼は、その後、どうなったのだろう。
すっかり忘れていたが、連日のウクライナでの戦争のニュースに触れる中で、また彼のことを思い出したのだった。

今、ウクライナに攻撃をしかけているロシア兵たちは、どんな顔をしていて、どんな気持ちでいるのだろう。

連日ニュースを通して見るウクライナの人たちの姿にはずっと心を動かされ続けているが、ロシア兵の顔がなかなか見えない。捕虜になったロシア兵の動画などもあり、彼らの話す内容には辛くなったが、これもウクライナ当局が出したものであるため、少し差っ引いて見たほうがよいのかもしれない。”ロシア兵は徴兵された兵士のため士気が云々”という報道もあったりはする。しかし今は戦時下。かなり慎重に情報に触れる癖は忘れないほうがよさそうではある。(自分に都合のよい、自分が楽になる、溜飲が下がるようなニュースばかりを選ばないように・・)

到底無理なことだとは思うが、普通の、ロシア兵たちの顔が見てみたいし、気持ちを知ってみたい。上官の命令に対して断る選択肢を持たず、人を殺さねばならない人たちのことを。歓迎されると思って行ったら、憎しみの目で侵略者と呼ばれた、人生たった20年そこらしか生きていない青年たちのことを。

私が会ったあの青年のような人が徴兵され、ウクライナ総攻撃に参加させられたら・・・考えるだけでも、ぞっとする。いや、別に彼のようなタイプでなくとも・・・そして、私自身、あなた自身がそうだったら・・・


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AJ

ウクライナの国花でもあるヒマワリ  北海道にて  撮影 AJ


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