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春らしい日と、特別な朝に(今朝は、コーヒー)

あたたかくなってきたことを、「春らしい」と言うなら、春らしい。


けれど、肌が不快になるくらいには、暑かった気もする。


格好のせいかな。


春の日に、冬の格好……。


昨日はそんな日だったけど、今日はどうだろう。


春らしいのか、冬らしいのか。

――天気の上では、今日も、暑いのかな。

――あたたかい、じゃなくて?

――アルネ。おはよう。

――あたたかいのは、好きでしょう。

――そうなんだけど、

――けど?

――……「ひどく寒い」から「あたたかい」になると、暑く感じちゃうのかな。落差がすごくて。

アルネは、少し肩をすくめて、それから小さく笑った。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――きみは、体が強くないものね。

――そう。ずっとあたたかいなら、いいけどね。朝も夜も。なんというか、手厳しいね。ぼくの体に。

――寒いときも、あたたまるしかないわ。だから……そうね。今朝は、なにをいただこうかしら。

――ぼくは、コーヒーが飲みたいかな。アルネがよければ、だけど。

――そうね。それから、甘いもの。

――……甘いものがあるのを、知ってるんだね。

――甘い匂いがするんだもの。

アルネの言う通り、甘いものがあるから、飲みものは苦いコーヒー。


といっても、ぼくが淹れるコーヒーは、そんなに苦くない。


苦すぎるのは、ぼくも苦手な方だ。


口当たりがすっきりしているくらいがいい。


ぼくの好みのコーヒーと、それから甘いものを、アルネに差し出す。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。コーヒーと……チョコチップクッキー?

――バレンタインだからね、今日は。作ったのは昨日だけど。

――ああ、そういえば。……うん、おいしいわ。どっちも。

――それはよかった。……うん、いいんじゃないかな。

――バレンタイン、ね。季節の行事を大切にする人だったのね。

――まあ……んん。

――?

――本来のバレンタインは、別に、チョコレートを渡したりとかじゃないから……まあ、おかしが食べたいだけだよ。こんな日にかこつけて。

――いいじゃない、おいしいもの。

――……そっか。まあ、アルネに喜んでもらえたなら、なにより。

――チョコレートにしろ花束にしろ、大切な人になにかを贈る日なんでしょう?

――ああ……それなら、気持ちはこめたよ。ちゃんと。コーヒーもチョコレートも両方。

――今日は、いい日になるわ。

――なるといいね。……あたたかく、なるといいかな。体を壊さない程度に。

まだ肌寒いけど、これからだんだんあたたかくなって、陽も出てくる。


バレンタインという日には、丁度いいのかな。


まだ冷えている体をあたためるように、ぼくは、時間をかけてコーヒーをすすった。

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