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少しずつ、苦しくない「ぼんやり」に(今朝は、カフェオレ)

雲の、流れが早い。


よく見えないくせに。


暖房の、不自然なあたたかさで、目が覚めて。


おぼろげな夢を、頭が勝手に、思い出そうとする。


思い出さなくていい。


思い出してよかった夢はないから。

――よく眠れた?

――……。

――よく眠れたのに、うかない顔なのね。

――……おはよう、アルネ。

――まだ、ぼんやりしているの?

――そうかもしれない。

クマがあるのか、そこを指先でなぞるアルネ。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――今朝は、何にしよう。コーヒー淹れようか。

――……。

――何?

――眠たくないみたいなのに、眠たそうだから。

――矛盾してるね。

――だって、眠たくないでしょう?

――よく眠ったからね。眠りすぎたくらいに。……たぶん、慣れちゃったせいかな。

――何に?

――眠れないことに? 一年の中で、不眠の方が多いからね。……どんなにしっかり眠っても、眠い気がしてしまう、というか。

――慣れというか、癖というか。

――どうしようもないね。

――……カフェオレがいいわ。牛乳はあるの?

――あるよ。たっぷり入れようね。

眠たくないのに、眠い気がする。


のは、外に出ないせいもあるのかな。


ようやく、明るいのにも慣れてきたころだけど。


まだ、明るいのがだめだったときの気持ちが、浮かんでくるようで。


空も晴れ上がったかと思えば、またすぐに暗くなってしまったり。


ぼくの気分も、ぐらぐらしている。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……うん、おいしいわ。

――よかった。……甘いね。砂糖は入れてないんだけど。

――どんな夢を見ていたの?

――……気になるの?

――あんまりぼんやりしているから。

――……覚えてる、ような気がしたけど。あんまり覚えてないな。ごめんね。

――夢は関係ないのね。

――どうだろう。最近は、夢を見ても、目が覚めた瞬間は「夢を見なかった」って、思ってしまうんだ。後々考えてみれば、ちゃんと見てたんだなって、思い出せるけど。

――夢の中でも、ぼんやりするようになったの?

――……そうなのかな。そうかもしれない。

――……。

――でも、今の方が、幸せなのかもしれない。ろくな夢を見ないなら、ぼやけて忘れてしまった方がいいよ。

――……ねえ、これ、おいしいわ。

――ありがとう。

――少しずつ、苦しくない「ぼんやり」になるといいわね。

――……ありがとう。

体が、あたたまってきた。


雲の流れは、変わらず早い。


でも。


今朝は、昨日の朝より、少しだけ寒くない。


そんな気がした。

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