八月が嫌いな、ぼくの事
八月が嫌い。
特に、盆が。
ぼくは、帰省しない。
数年前から。
実家にも、地元にも、近寄らない。
地元には、恨みはない。
でも、きっと息ができなくなる。
それに、万が一のことを考えると。
万が一、ぼくを生んだ人達を、顔を合わせてしまったら。
去年の盆は、見知らぬ電話番号から、着信があった。
SMSも届いていたから、発信者が誰なのかわかった。
父方の伯母だった。
SMSに用件は書かれておらず、ただ、折り返して電話してほしい、とだけ。
今の電話番号をどうして知っているのか、どうしてわざわざ連絡をよこしてきたのか、わからなくて、ぼくはパニックになった。
(電話番号を知っていたのは、結婚した当時、祝儀の礼をするために、ぼくの方が電話したからだとわかった。)
そのときのぼくは、ぼくを生んだ人達が、ぼくがいかに親不孝か、一方的に被害者面をして、親戚中に言いふらしているのだと思った。
そんなことは(おそらく)起こらないはずなのに、そう、本気で思い込んでいた。
結局のところ、伯母は、実家に寄ったときに、ぼくの兄妹はいるのに、ぼくはいなかったから、それで気になったらしい。
ぼくは、適当に返事をして、電話を切った。そして、その番号を着信拒否した。
伯母は、今年の正月に、年賀状をよこした。それまで、まったくなかったのに。
次届いたら、受け取り拒否の手続きをしようか。
その場でしなかったのは、すぐに捨ててしまったから。目にした瞬間、吐きそうになって、破いてしまったから。
だから、盆は嫌いだ。
何が起こるか、わからない。
また、誰かの着信が入ったら、どうしよう。
いつもなら、そのまま無視して、着信拒否するのに。
ご丁寧に、SMSまで付いていたら。
伯母は、悪くない。
ぼくだって、本当は、おじいちゃんとおばあちゃんの墓参りがしたい。
唯一、存命のはずの母方のおばあちゃんにも会いたい。ぼくのことは、もうわからないだろうけど。
生まれて育った土地も、ぼくは大好きだった。
子どものころはよく、飽きることなく川のそばに佇んだり、近くの山に入ったりした。
その時間が唯一の救いで、そこにいる人達が弊害だった。
ぼくを生んだ人達以外にも、たくさん。
閉鎖的なところだったから、より、ぼくみたいなのは、気持ち悪がられたのかな。
あはは。
どうか。
どうか、何事もなく、八月が終わりますように。
ぼくは、八月が嫌い。
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