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ぼくは、いつも祈っている(今朝は、カフェオレ)

さわがしい夢ばかり見る。


まるで眠った気にならないような。


その上、決まって嫌な終わり方をするし。


眠りたくない。


でも、生きものは眠らないといけない。


眠りたくないぼくは、いつでも眠い。

――眠い……。

――眠くないときがないわね、きみは。

――……おはよう、アルネ。

アルネは、ぼくの顔を覗き込んで、少し呆れた風だった。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――くまが、ひどいわ。

――いつものことだよ。……10年以上前から。

――最後に、ゆっくり眠れたのは?

――わからない。……自分が、他の人達と変わらないと、信じて疑わなかったころ。

――……。

――ごめん。

――ううん。……今日は、具合がよくない日なの?

――なんだか、しばらくそんな感じなんだ。いいとも言えないし、悪いとも言えない。ずっと、その間をふらふらしている感じ。それが、具合がよくないってことなんだろうけど。

――昨日は、知らない駅で降りていたわ。

――間違えて、じゃないよ。いつか、降りてみたかったんだ。その「いつか」を、昨日にする予定はなかったんだけど。唐突に思い立って。

――いつものことね。

――うん、いつものこと。

――いいことはあったの?

――ほとんど人気がなかった。

――……。

――冗談だよ。事実ではあるけど。……そうだね、景色がよかったな。海を見たかったから。

――きみの場合は、「観光地じゃない」が前に付く海ね。

――……そうだね。一人で静かに、ぼんやりしていたかったから。

――それで、できたの? ぼんやりするのは。

――うん。運がいいことに、風も強くなくて、あまり寒くなくて。カモメはたくさんいたけど。でも、頭を空っぽにするには、いいところだったよ。

――それでも、よくない夢を見るのね。

――……うん。

――知らない駅に降りたくなったのは、少しでもいい夢が見られるように?

――まあ、そうだね。本当は、夢なんか見たくないけど。それは、できないみたいだから。せめて、ましになればいいなって。……無理だったけど。

――どうしてかしら。

――どうしてなんだろうね。

――……。

――……。

――ねえ、

――うん?

――カフェオレが飲みたいわ。牛乳をたっぷり入れてほしいの。

――ああ、いいよ。ちょっと待ってて。

――それで、少しでも夢から離れられるかしら。

――……だと、いいな。

挽きたての、珈琲豆の薫り。


あたたまった牛乳の甘さ。


それはたしかに、ぼくが今、この朝の中にいる証明のようだった。


どうしても、夢を見てしまうのなら。


せめて、早く忘れられるように。


後ろ向きな願いだけど。


ぼくは、いつも祈っている。

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