![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/119696297/rectangle_large_type_2_fc58dddede140f2374b521444594901a.png?width=800)
ぼくは、いつも祈っている(今朝は、カフェオレ)
さわがしい夢ばかり見る。
まるで眠った気にならないような。
その上、決まって嫌な終わり方をするし。
眠りたくない。
でも、生きものは眠らないといけない。
眠りたくないぼくは、いつでも眠い。
――眠い……。
――眠くないときがないわね、きみは。
――……おはよう、アルネ。
アルネは、ぼくの顔を覗き込んで、少し呆れた風だった。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――くまが、ひどいわ。
――いつものことだよ。……10年以上前から。
――最後に、ゆっくり眠れたのは?
――わからない。……自分が、他の人達と変わらないと、信じて疑わなかったころ。
――……。
――ごめん。
――ううん。……今日は、具合がよくない日なの?
――なんだか、しばらくそんな感じなんだ。いいとも言えないし、悪いとも言えない。ずっと、その間をふらふらしている感じ。それが、具合がよくないってことなんだろうけど。
――昨日は、知らない駅で降りていたわ。
――間違えて、じゃないよ。いつか、降りてみたかったんだ。その「いつか」を、昨日にする予定はなかったんだけど。唐突に思い立って。
――いつものことね。
――うん、いつものこと。
――いいことはあったの?
――ほとんど人気がなかった。
――……。
――冗談だよ。事実ではあるけど。……そうだね、景色がよかったな。海を見たかったから。
――きみの場合は、「観光地じゃない」が前に付く海ね。
――……そうだね。一人で静かに、ぼんやりしていたかったから。
――それで、できたの? ぼんやりするのは。
――うん。運がいいことに、風も強くなくて、あまり寒くなくて。カモメはたくさんいたけど。でも、頭を空っぽにするには、いいところだったよ。
――それでも、よくない夢を見るのね。
――……うん。
――知らない駅に降りたくなったのは、少しでもいい夢が見られるように?
――まあ、そうだね。本当は、夢なんか見たくないけど。それは、できないみたいだから。せめて、ましになればいいなって。……無理だったけど。
――どうしてかしら。
――どうしてなんだろうね。
――……。
――……。
――ねえ、
――うん?
――カフェオレが飲みたいわ。牛乳をたっぷり入れてほしいの。
――ああ、いいよ。ちょっと待ってて。
――それで、少しでも夢から離れられるかしら。
――……だと、いいな。
挽きたての、珈琲豆の薫り。
あたたまった牛乳の甘さ。
それはたしかに、ぼくが今、この朝の中にいる証明のようだった。
どうしても、夢を見てしまうのなら。
せめて、早く忘れられるように。
後ろ向きな願いだけど。
ぼくは、いつも祈っている。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。