「寒いね」と話しかければ、(今朝は、ホットミルク)
冷え込むようになった朝。なので、ぼくもアルネも、ブランケットが欠かせない。エアコンは付けたり切ったり。いろんなところが乾くから、苦手。
――寒いね。
と、ぽつりと言ったのはアルネ。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――うん、寒い。
――……。
――……。
――全然あったかくない。
――?
――……。
――……あ。『「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ』? あれは、身体的にあたたかくなるわけじゃないよ。
――わかってる。そこまでバカじゃない。
――すみません。今朝は、なにがいい?
――ホットミルク。とびきりあたたかいの。
――はいはい。
牛乳をミルクパンに開けながら、吐息で指先をあたためる。いくら冷え込むとはいえ、たぶん言うほど寒くはない。ぼくもアルネも、冷えやすいだけだ。
今朝のアルネの機嫌は、あまりいいとは言えない。それは、ぼくも同じか。こごえると、どんなことにも嫌気が差してしまう。どうしても。それは、ぼくらに限った話じゃないらしいけど。
ミルクパンから立ち上る湯気に、指先をさらす。あたたかい。一足先に、ほんの少しだけあたたまったぼくは、カップもあたためる。
――はい、どうぞ。熱いから、ゆっくりね。
――おいしい。
――それはよかった。
――……。
――落ち着いた?
――……なに?
――言い方を間違えたかな。……ええと、安心した? 元気になった?
――それなりに。
――それなり……まあ、ほどほどが一番だよね。
――寒いのは苦手。
――ぼくも。どれだけ冬を越しても、慣れないよ。まあ、来なかったら来なかったで、味気ないんだろうけど。
――雪、降るかな。
――まだじゃないかな。ひょうなら、この前見たような気がするけど。
――まだ寒くなるかな。
――来月とか、再来月ね。
――ねえ。
――なに?
――あったかいものは、もっとおいしくなるかな。
――……なるといいね。
お互いに、冷める前に飲み干したホットミルクのカップは、とっくに冷えていた。あたたかくなるのは、時間がかかるのに。冷めてしまうのは、どうしてすぐなんだろう。
――また淹れるよ。あたたかくて、おいしいもの。ホットミルクでも、コーヒーでも。
――来年も。
――来年も。……気が早いね。
――あっという間に、終わってしまうもの。
――じゃあ、見逃さないように、過ごそうか。
あたたかくなったけど、まだもう少し。ぼくは、また牛乳をミルクパンに開けた。二人分の牛乳を。
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