ピアノの君と、ぼんやりする。(今朝は、ホットコーヒー)
――おはよう。
――……。
――ね、おはよう。
――あ。……おはよう。アルネ。
――ピアノ。
――え?
――ピアノ、弾いてたの?
――まさか。……どうして?
――ピアノの音、聞こえたから。
――ああ、ピアノの曲なら、さっきまで聞いていたけど。だから、ぼくじゃないよ。
少し、がっかりしたような顔をしたアルネ。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
しかし、そんなにがっかりするようなことかな。
――私、ピアノ好きなの。
――それは、ぼくが好きだからだろうね。
――弾いたことはないの?
――ない。憧れたことはある。大人になってからだけど。……鍵盤ハーモニカならあるかな。でも、あれも鍵盤はあるけど、ピアノではないね。
――弾いてみたいの?
――んん、どうだろう。ちゃんと弾けなくても、時々機会があったら、鍵盤をぽつぽつ押してみたりする。それだけでも、なぜか、満ち足りる、というか。
――……。
――変な話しちゃったね。今朝は、なにが飲みたい?
――コーヒー。
――うん。ちょっと待ってて。
豆を量り、ミルで挽いて、それから、CDラジカセの電源を入れる。コーヒーを淹れるときは、必ず音楽をかける。癖のようなもので、今では、なにかかかっていないと、落ち着かない。
アルネがピアノを気にしていたので、今朝はピアノの曲にする。
――はい、どうぞ。
――ありがとう。……うん、おいしいわ。
――それはよかった。
――君が焼いた豆なの?
――そう。
――豆を焼くのは慣れたの?
――まだまだ。よほどの失敗は減ったけど……そうだなあ、なにが自分にとっての答えなのか、わからないから。どれも、おいしいけど。ぼくにとってのコーヒー……。
――いい曲。
――ん?
――今、かけているの。
――あ、うん。ぼくもそう思う。だから、かけてる。
――たぶんね。
――うん。
――いつか、見つかるわ。
――見つかる……ああ、コーヒーのことか。
――そもそも、まだ色々わからないんでしょう。
――そうだね、そもそも。
――でも、手探りも楽しいのよね。
――うん。楽しい。とても。
――このコーヒーも、おいしい。これは、「君の」コーヒー。いつか淹れるコーヒーも、「君の」コーヒー。それに、変わりはないわ。
――そっか。……ねえ、アルネ。
――なに?
――この曲、なんて曲か、知ってる?
――今の曲? ピアノもあって、ギターもあって……なにかしら? わからないわ。君がよく聞いている曲、以外は。
――じゃあ、秘密にしておくよ。
――……教えてくれないよ。
――じゃあ、これだけ。君を形容するのに、とてもいい曲だよ。
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