「コンデンスミルクの空き缶に入ったコーヒー」まで、あと
新潮文庫の『ティファニーで朝食を』が売り切れていた。
プレミアムカバーの。
『新潮文庫の100冊』に含まれている。
この書店で、売り切れている本があるのは、珍しい。
ぼくは、プレミアムカバーじゃないのを持っているので、目当てはそれじゃなかった。
『老人と海』。
新訳で、装丁もずいぶん鮮やかになった。
レジでもらえるしおりは、青色のものを選んだ。
そのまま、書店併設のカフェで読むことにした。
ぼくが珈琲屋になるまで、あと2日。
昨日は、アイスコーヒーのレシピをさらったり、書きものも、SNSに投稿する短歌と公募に応募予定の短歌、それぞれの自選をしたりした。
珈琲屋の、残りの準備は、あと1日あれば事足りる。
夕方になって、息抜きしてもいいんじゃないか、と思ったぼくは、100冊の中の1冊を決めることにしたのだった。
『老人と海』は、何年か前は持っていた。
おなじく新潮文庫で、装丁はもっと簡素だった。はず。
中古で、何版か前だから、フォントのサイズが小さかった。ゆえに、読みにくかった。
今では、特に中古の新潮文庫は、手に取らなくなった。
ぼくの視力が、よくならない限り。
悲しいことだ。まだ30歳なのに。
それはさておき、以前よりフォントのサイズが大きくなった『海と老人』に、ぼくはすぐに引き込まれた。
(新訳のおかげもあるかもしれないけど、ぼくは以前の翻訳を知らない。)
なんとなく、ぼくには合わないと思っていた。ヘミングウェイは、男性の世界を描いていると思っているから。
(まあ、ぼくは、女性の世界を描いたものも、苦手だけど。ようは、男性であること、女性であることが強調されすぎている物語が苦手だ。)
でも、『老人と海』は、人の普遍的な話だ。ぼくは、そう思った。皮肉の効いているラストも好きだ。
イヤホンから流れっぱなしのSpotifyは、アルバム2枚をとっくに通り過ぎて、3枚目に入っていた。
カフェに入店してから、2時間以上が経っていた。
店外へ出ると、体が冷房でずいぶん冷えていたことに気付いた。ぬるい外気を肌になじませると、気持ちいい。
一気に読み終えた物語をふり返りながら、「コンデンスミルクの空き缶に入ったコーヒー」を、飲んでみたいな、と思った。
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