ぼく の (8ヶ月)じゆうけんきゅう(水温集/古本屋 弐拾dB)
先日、理想的なバケツを見つけた。
見つけた瞬間、「コレだ」と思った。ので、その場でお買い上げした。
何に対する理想かといえば、『水温集』に対する理想だ。
これは世にも珍しい水に溶けてしまう一冊の本。
――BOOTH商品紹介より引用
『水温集』をお買い上げし、早8ヶ月。
8ヶ月前、僕は尾道を訪れた。旅の目的に、「古本屋 弐拾dBを訪れること」そして「『水温集』を手に入れること」があった。見事その2つを達成したものの、僕の旅はまだ完成していなかった。
水に溶けることで完成する詩。
そのふさわしい舞台を見つけ出すこと。
先述のバケツを見つけたとき、8ヶ月かかって、ようやくこの旅が完成すると思った。
そして、その時は来た。
用意するもの
・古本屋 弐拾dB(撰)『水温集』
・トタン豆バケツ大
・水
早速、詩を1枚取り出し、いざ入水。
瞬間、ちりぢりになる詩、詩、詩。
まだ1枚しか入れていなかったのだけど、それらは沈んだり浮かんだりしながら、水中での自分達の姿を模索しているようだった。
「あ」
『けがミルクを舐めている』
ある詩のタイトル。の、頭の方が千切れてしまったようだ。たしか、これは『けが』じゃなくて『夜明けが』だ。
『夜』と『明』はどこへ行ったんだろう。
どこへ……。
「あ」
溶解した紙の繊維に、埋もれていた。見ぃつけた。まるで、春先の雪解けのような光景だ。
元々居た詩からはぐれた気分はどう? それとも、『はぐれた』んじゃなくて、『離れた』のかな?
今度は、そばにいたパートナーが、1枚入水。
今度は、詩ともいえない(いいえ、もしかしたら、これも一つの詩なの?)紙に散らばった字、字、字。
それらは蕩けて、一足先に泳いでいた詩に、かぶさる? 割り込む? ことばとことばの、大渋滞。
争っているのかしら。それとも、戯れているのかしら。それとも――。
もっと入り乱れほしいな。と考え、さらにもう1枚。けれど、いよいよ飽和してしまったのか、新入りはなかなか溶けてくれず。
「1時間寝かしてみよう」
と、パートナーの提案。
ナイスアイデアだと思った。
そして僕は、1時間待った。
すると、
詩と詩に、もはや境界は無くなっていた。
溶け合い、混ざり合い、ソコには世界があるだけだった。水によって解かれた、詩達の自由な世界が。
僕が見たかったのはコレなのだと、そのとき初めて思った。
2020年1月13日、古本屋 弐拾dB(藤井)さんのツイートより
水温集/古本屋 弐拾dB(撰)(2018年)
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