手から、コーヒーの匂いがする。
淹れる前も後も、手は洗ったし、帰ってからシャワーも浴びた。
でも、すぐに取れるものじゃないらしい。
本当に、ぼくにしかわからないくらいだけど。
そう言って、アルネは肩をすくめた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
豆を挽いて、ドリッパーの中で粉をならして。
湯を沸かして、ドリップして。
珈琲屋として、新しく始まったぼく。
手順の一つ一つが、厳かな儀式のようにも思う。
祈りのような。
これからのぼくは、なにかが変わるかもしれない。
変わらないかもしれない。
でも、珈琲屋になって、すでに変わったものは、きっとある。
それが、なにかはわからないけど。
きっと、ぼくをいい方へ、導いてくれる気がした。