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アルネとバレンタイン(今朝は、グァテマラのコーヒー)

少し甘くて、少し苦い匂いがした。昨日、冷蔵庫にしまっておいたはずだけど。匂いだけ、まだ残っているらしい。

――冷蔵庫にあるの?

――あるけど……冷えてるよ。

――温めればいいじゃない。

――そうなんだけど……ちょっと待って、すごく眠い。

――起きて。朝だから。

――簡潔な理由……。ちょっと待って。

昨日作ったクッキー。そういえば、アルネに食べてもらっていなかった。ので、ちょっと不機嫌なのかもしれない。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――薄情ね。バレンタインだったのに、何もくれないなんて。

――そもそも、作ったの昨日だけどね。一日遅れ。……まあ、悪かったよ。大丈夫、まだいっぱいあるから。……飲みものは?

――コーヒー。甘いの。

――んん……グァテマラがあるから、それにしようか。

少し甘いクッキーと、少し苦いクッキー。の、二つがあるので、コーヒーも甘くて苦いのがいいんだろう。


豆を挽いていると、ようやく目が覚めてきた。手に伝わる振動と、立ち上る薫りと。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。クッキーは何?

――ええと……こっちがチョコチップで、こっちがコーヒー。コーヒーのは、挽いた豆を入れたよ。

――どっちもぷちぷちする。

――コーヒーとコーヒー……。すごく目が覚めそう。

――君は丁度いいんじゃないの。

――そうだね。……なんか最近、夜になるとすごく眠くて。

――自然なことじゃないの?

――おっしゃる通りなんだけど。21時とか20時とか、時間が早すぎるというか……。あと、ぐったり疲れてる。そりゃ、よく眠れるけど。

――ずっとお家にいたからよ。

――まあ……外に出ちゃだめだったからね。今日からは、いいみたいだけど。でも、天気が悪いね。風が強い。

――今日も寒いかしら?

――どうだろう。でも、今はそんなに。温かいからかな。コーヒー飲んでるしね。

――クッキーもおいしいわ。

――それはよかった。作った甲斐があるよ。……実は、まだまだあるんだよね。生地も。当分、甘いものに困らないね。

――ねえ。

――なに?

――眠気は覚めた?

――覚めた……かな。

――よかったわ。寝ぼけたままのお茶は、おいしくないから。

――んん……。その通りだね。せっかくだから、こう、隅々まで味わいたいね。

――天気、よくなるかしら。

――さあ。まあ、いいよこのままでも。それはそれで、それなりの過ごし方があるよ。

と言いつつも、なにも考えていないけど。でも、ぬくもるお茶会で始まる朝なら、ぬくもる一日になる。そう思った。

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