巡る季節と、巡らないぼく(今朝は、コーヒー)
――おはよう。
――おはよう、アルネ。
――12月よ。
――……そうだったっけ。
――11月に31日はないのよ。
――じゃあ、12月だ。
まだぼんやりしているぼくに、アルネは肩をすくめる。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――12月……。今年も、あと一月か。
――……。
――なに?
――なんとも思ってなさそう。
――まあ、まだ一月あるから。その内、感慨深くなるよ。大晦日には。たぶん。
――……責めてるわけじゃないのよ。
――わかってるよ。今朝はなにがいい?
――コーヒー。冬用コーヒーとか、ないの?
――世の中に存在しているかもしれないけど、うちにはないかな。
――じゃあ、うちにあるコーヒー。
――はいはい。
豆をミルで挽いていると、ようやく目が覚めてきた。ここ最近は、なんだかずっと夢の中にいるような気がする。夢でも現実でも、大して変わらない生活を送っている。のは、いいことなのか、悪いことなのか。
――はい、どうぞ。砂糖とミルクは?
――いらない。いつも。
――あ。
――目は開いているけど、まだ眠っているみたいね。
――これでも、覚めてきた方なんだけど。
――君はいつも眠そうだけど、今朝は特にかしら?
――ぼく、そんなに眠そうに見えていたのか……。今朝……そう見える?
――とっても。
――……まあ、常に眠そうなのは、その通りかな。常に眠いんだから。
――ちゃんと眠っているのに?
――そのはずなんだけど。どうしてかな。
――本当は、起きていたいの?
――そりゃ、そうだけど。起きなきゃ、なにもできないよ。
――ふうん。
――?
――起きていたくないから、眠いのかと思ってた。
――ああ、そういう……。そんなことは、ないよ。自分でもわからないから、断言はできないけど。だって、夢でも現実でも、どこにいても、ぼくは変わらないんだから。それなら、夢にいたってしょうがないよ。
――諦観?
――そんな大層なもんじゃないよ。諦めではあるかもしれないけど。
――なにに対する諦め?
――……。
――……。
――生きることと、しぬこと。
――どっちも諦めたら、矛盾しない?
――矛盾しているのが、ぼくなので。
――わからない。
――ぼくも。
――……。
――……。
――今日も、寒くなりそう。
――もう一杯いる?
――いる。
季節は巡る。でも、ぼくは変わったり、変わっていなかったりする。同じ場所でも違う場所でも、足踏みをして。けれど、それがぼくで、その隣にはアルネがいて。今年も最後まで、たぶんそんな年になる。
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