「8月まで、眠っちゃったのかと」(今朝は、アイスコーヒー)
じっとりした暑さで目が覚めた。口の中が粘ついている。うがいしても、なかなか不快感はとれなかった。
――おはよう。
――あ。……おはよう、アルネ。
――変な顔。
――寝起きだし、暑いし……。
アルネはアルネで、少し元気がないように見えた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
――アルネも疲れてる?
――暑いもの。
――同じだね。
――うれしくないおそろいね。
――そうだね。
――……。
――……。
――冷たいもの、飲みましょ。
――うん。……アイスコーヒーにしようか。氷たくさん入れて。
まあ、たくさん入れないと、なかなか冷たくならないんだけど。コーヒーは。氷をつめ込んだサーバーの上で、いつも通りコーヒーを淹れる。熱々を注がれて、少しずつ崩れていく氷がきれい。
――はい、どうぞ。
――冷たい。
――本当に、たくさん入れたよ。氷。薄くならない程度に。
――少し薄い。
――……練習します。
――冗談よ。おいしいわ。
――それはよかった。
――……。
――……。
――まだ、5月なのね。何ヶ月も眠ってしまったのかと思ったわ。
――暑いし、蒸すからね。……かき氷食べたいな。
――かき氷器なんて、ここにあったかしら?
――ないよ。買わなきゃ。アイスを作るのも、楽しそうだな。
――すっかり夏の話ね。
――夏の気候だもの。
――4月は春……春の次は初夏……。初夏って、あったのかしら。
――あったんじゃないかな。少しは。
――いつ?
――んん……GWとか?
――GWは、外へ出ていないから。
――ぼくが出てないからね。
――困ったわ。喉が渇いて、しょうがないの。
――おかわりあるよ。
――ありがとう。……まだ、6月も7月も8月もあるのに。来るはずだったものが来ないのは、寂しいわ。
――ぼくも。……春も、ほんの少しの間だったしね。
――暑いのは苦手。
――ぼくも。……だから、またアイスコーヒーと……ああ、コーヒーゼリーも作ってみたいんだよね。それはそれで、楽しい夏にしようよ。
――まだ初夏よ。
――……すみません。
――あ。
――?
――外、見て。緑がまぶしいわ。
――ああ、本当。初夏らしいね。……しばらく、枯れないでほしいな。
――ねえ、また淹れてね。冷たいコーヒー。
――まかせて。
ぼくにとってもアルネにとっても、疲れることばかりだけど。アルネには、笑ってほしいから。笑ってくれるようなことが、一つでも見つかればいい。そう思った。
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