見出し画像

なにもしなかった。なにもできなかった。

眠っていた。ずーっと眠っていた。不正出血は、だんだんひどくなる。布団を片付けず、コンタクトも付けず、時々しゃぼん玉をふいた。昨日は、そんな日だった。


前日は、義理の両親に会っていた。とても優しい人達。でも、その優しさがぼくには苦しくて。良い子でいなきゃ。良い子で。ここは、本来の実家じゃないんだから、良い子のフリはしなくていいはずなのに。不慣れな愛想笑い。うちに帰った後、ぼくは無表情になる。その日の感情は、すべて使い切ったから。


義実家を訪れた翌日、必ず調子を崩すぼく。布団から起き上がれず。不正出血までして。冷蔵庫の中には、なにもなかった。なにも考えず、デリバリーを頼んだ。そんな身分じゃないくせに。フライドチキンをむさぼって。案の定、気分が悪くなった。油物は、得意じゃなくなったのに。ぼくは、金を使ってぼくをいじめている。


しゃぼん玉をふいているときだけ、良いことも悪いことも考えずにいられた。昨日はわりと涼しかったけど、それでも日は照っていた。日曜日だったこともあり、隣人親子がきゃっきゃと遊んでいるのが聞こえた。楽しそうな親子。ぶくぶく泡をふいているぼく。羨ましいような、どうでもいいような、よくわからない気持ち。「良好な親子関係」を、ぼくはとっくに諦めている。もう、欲しいとも思わない。気付けば、しゃぼん液を二瓶使い切っていた。


夢を見たり、見なかったり。現実に戻ったのかどうか、わからなくなったり。やっと動けるようになったのは、18時を過ぎたころだった。一日の終わり。なにもしなかったし、なにもできなかった。出血はまだ続いている。EVEを飲んだ。不快感は解消された。気がした。外に出ようと思った。


外はまだ明るかった。朝と似ているけど、匂いが違う。空には、ぽっかり月が浮かんでいた。なんとなく、写真を撮ってみた。肉眼ではクレーターが見えるのに、写真の中では月と言われなければわからない。画鋲で穴を開けた空。それが、一番しっくり来た。

画像1

なにもしなかった。なにもできなかった。「そんな日もある」と、パートナーは決して責めない。悔やんでいるのは、ぼくだけだ。どうしようもないことはある。それは、頭で理解している。でも、救われるわけじゃない。まともに生きられない。その事実がぼくの首を絞め続ける。「また明日」いつまで言えるんだろう。ふいに、涙がこぼれた。

この記事が参加している募集

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 「サポートしたい」と思っていただけたら、うれしいです。 いただいたサポートは、サンプルロースター(焙煎機)の購入資金に充てる予定です。