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友人が結婚式に「好きな格好で来ればいい」と言ってくれた話。

友人の結婚式に招待された。ぼくは、返信をどうしたものか、迷っていた。いや、結婚式に参加したくないわけじゃないし、そもそも「出席? するする」と以前からLINEで話していた。金銭面の問題も(一応)ない。ぼくが迷っていたのは、参加するときの服装だった。


何年か前、大学の先輩の結婚式に招待されたときは、シンプルなドレスを着ていった。他の選択肢は与えられていなかった。当時は、実家で暮らしていたから。ドレス以外のものを用意していたら、両親からどんな風に罵倒されたのか、想像にかたくない。でも、両親とはもう1年以上会っていない。連絡もしていない。ぼくを阻むものは、なにもない。


件の友人は、大学入学から数えると、10年来の付き合いになる。連絡を取るのは、年に数回くらいだけど、よそよそしくなることがない。少々変わってはいるけど、いい奴だ。(と言えば、「変わってるのはお前だろ」と返ってくるのが目に見える。)性別のあやふやなぼくのことを、とやかく言ったこともない。


でも、結婚式……。ぼくは、スーツで参加したい。男性用の。ドレスは嫌だ。それが、許されるんだろうか。友人にとって大事で大切な場に。ぼくは来ていいんだろうか。


「好きな格好で来ればええよ」


電話をしたぼくに、友人は言った。


「格好のことで、〇〇(ぼく)になんか言う奴はおらんよ」


そうだった。ぼくは思った。大学のときから、そうだったじゃないか。冗談は言うけど、人が本当に嫌がることは絶対に言わない、いい奴だったじゃないか。大学の頃から。


ぼくは、大学時代の知り合いとは、ほとんど縁が切れている。そんな中、変わらない付き合いを続けてくれる友人。だから、式に呼ばれたときは、嬉しかった。本当に嬉しかったんだ。「式に来てほしい」と思われていることが。


同時に不安だった。ぼくはぼくのまま、行っていいのか。でもその不安を、友人はあっさり払拭してくれた。ぼくは、考えすぎていたのかもしれない。


本題は5分くらいで終わって、あとは近況報告だの招待状の宛て名への文句だの(旧姓のまま送られてきた)40分以上話した。(ことに、電話を切ったときに気付いた。)安心したぼくは、招待状の返信の書き方をネットで調べた。これで、堂々と参加できる。


幸せになれよ。と思ったけど、もうなっているだろうし、奥さんのことも大事にしてるだろうし、きっと大事にしてもらっている。そういう奴だ。知っている。


ぼくは、ぼくのことをしよう。スーツ、探しに行こう。

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