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夜の味がする朝に(今朝は、ホットコーヒー)

ようやく、雨が止んだ。


と思う。


わからない。


この土地の天気予報は、いつも外れる。


雨の匂いのする土地。


雨は止んだ。


けれど、薄ら暗いまま。


曇りなのは、変わらず。


日差しにうなじを焼かれるよりは、いいのかな。


頭痛がしなくなれば、なんでもいい。

――おはよう。

――……おはよう。

――……。

――?

――どうして、すごく眠たそうなのに、まったく眠たくない、みたいな顔をしているのかしら。

――……そんな変な顔してる?

――いつもしてる。

――……そっか。

ぼくの、生気のない返事に、アルネは肩をすくめた。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――眠たいの?

――ねむ……たい、のかな。眠ろうと思えば、眠れる気もするけど。……そうじゃない気もする。

――あら。きみは、眠りたいのに、眠れない人じゃなかったの?

――まあ……日中は、そうだね。一眠りが、できなくなったかな。眠たいな、疲れたな、って思っても。夜はよく眠れてるから、いいんだけど。

――いいこと?

――いいこと。

――……ねえ、たとえお昼でも、部屋が薄ら暗かったら、人は眠くなるらしいわ。

――……あー。

――きみの部屋は……きみの部屋だけじゃなかったわね。朝も夜も、薄ら暗いのは。

――電気も点けないからね。……いや、自分の部屋にいるときは、スタンドライトくらいは点けるけど。

――それも、夜を演出しているようなものね。

――……。

――だからといって、明るくするような、きみじゃないでしょう。

――少しの間なら、いいけどね。……ずっと明るいのは、落ち着かない。なんでなのかは、わからないけど。

――……ねえ、今朝は、コーヒーが飲みたいわ。

――あ、うん。まかせて。

――夜の飲みものだものね。

――……そんな見た目だからね。

まあ、朝でも昼でも、飲むときは飲むけど。


(むしろ、眠れなくなるから、夜は飲まないけど。)


夜の飲みもの。


それは、とてもすてきな響きだと思った。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……うん、おいしい。

――よかった。……うん、うん。

――夜の味がする。

――そう?

――しないの?

――……。

――……。

――ぼくには、わからないかな。

――舌が、ずっと夜だからよ。

――そう……なのかな。

――そうなのよ。

――舌が夜……。

――今日は、晴れるといいわね。

――どうして、そう思うの?

――どうして、そう思わないの?

――いや……まあ、晴れた方がいいな。頭痛は嫌だし。

――いい日になるといいわね。

――……うん、そうだね。

夜の飲みものを、すすりながら。


ずっと真夜中じゃなくてもいいかな、と思った。


それはもう、夜じゃなくなってしまうから。


今日は、元気でいられますように。


そう、思った。

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