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雨の檻の中の、数刻

玄関の、外の方のドアノブには、虫除けがかかっている。


ので、よく、カタカタ鳴る。


風が強いと。


が、それがかき消されるほど、昨日は、雨音が強かった。


雨粒が、窓ガラスに叩き付けられる。頭に浮かぶ。浮かばせようとしなくても。


新しい家に住み始めて、一番強いんじゃないか。弱々しい家が、吹き飛ぶみたいだ。


吹き飛んでしまえばいい。


ぼくは丁度、翌日の、珈琲屋の出店準備を済ませたところだった。


天気も悪くないし、気晴らしにでも行こうか、と思ったところだった。


予報は、大きく外れ、その後も、なんだか煮えきらない感じだった。


雷まで鳴る。


去年の今ごろは、こんなに天気が荒れることがあっただろうか。


あったとしても、こんなに頻繁だったろうか。


車はないし、自転車は使えない。ぼくの足も、頼りない。


ぼんやりする。


色んなことが一段落すると、ぼくは、眠たくなってしまう。


たぶん、眠ろうにも眠れない天候だろうけど。


けれど、意識を手放してしまいたい気持ちもある。


ああ、どうしよう……。


悩んでいる内に、こころなし、雨が弱まってきた気がする。


ところで、今は、少なくともニュースでは、ゲリラ豪雨と呼ばないらしい。


集中豪雨、もしくは、局地的大雨。


「ゲリラ」は、戦争を想起させるから。


(とはいえ、ニュースサイトによっては、「ゲリラ豪雨」をなんとはなしに使用している。はて。)


ぼくは、暗いのが好きだ。


だから、外に出られないとしても、雨が好きだ。


EVEを服用して、頭痛を抑え込めさえすれば。


でも、暗いと、眠くなってしまう。


ぼくが、というより、人の仕組みが、そうなっているかららしいが。


うとうとしながら、本を開く。


その日の夜、THE FIRST TAKEに長谷川白紙が出演することを思い出す。


それでも、目は開かない。


眠ってもいいのだ。


問題は、眠たくても、なぜか、眠りに落ちないことだ。


(ぼくは、昼にどれだけ眠っても、夜も眠れる。けれど、それを過眠と呼ぶなら、問題かもしれない。)


ああ、そうだ。


来週末の、朗読会。


練習しないと、練習……。


それでぼくは、さっきとは違う本を開いた。


短い話で、10分もかからない。


短ければ短いほどいい、わけじゃないけど、たぶん、本番では早口になるから……。


雨は、嘘のように止んでいた。


雷だけが、名残惜しそうに鳴っていた。

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