マーマレードと、あとコーヒーの話
マーマレードは、大人になったら好きになると思っていた。
と、スコーンの店で、スコーンにマーマレードを塗りながら思った。
もちろん、食べるために塗った。
添えられていたから、塗った。
残そうと思わないくらいには、苦手じゃないから。
でも、苦手なものは苦手。あの苦みが。
まずいと思ったことはない。
食べたくないと思ったこともない。
ただ、進んで注文しようと思ったことはない。
大人になったら好きになると思っていたのは、あと、酒とかか。
好きになるどころか、そもそも受け付けない体質なのだけど。
(飲んだことはあるので、カシスオレンジとかの味は知っている。水でいいかな、と思ったので、好きじゃないんだろう、たぶん。)
あとは、なんだろう。辛いものとかか。
キムチとか、味は好きなんだけど。いかんせん辛いので、どうにもならない。
辛みは痛みだから、痛さに強くないぼくの手には負えないらしい。
そういえば、子どものころに苦手だったものが、大人になって好きになったものはあるけど。
子どものころ好きだったものを、大人になって嫌いになったものは、ない気がする。
パッと出てこないだけかもしれないけど、すぐには思い出せない。
それはさておき、今となっては珈琲屋だけど、3、4年前まで、珈琲を飲めなかった。
ほとんど口にしたこともなかったけど、飲む機会といえば、親戚の家に招かれたときくらい。
おいしいとか、まずいとか以前に、舌が受け付けてくれなかった。
砂糖やフレッシュミルクを足しても、どうにもならなかった。
(インスタントコーヒーが、合わなかったんだろうけど。)
飲めるようになったきっかけといえば、近所の古本屋。
本屋ができたことに浮き立ったはいいものの、ドリンクも提供しているところで休もうとなったときに、ようやく珈琲しか提供していないことに気付いた。(当時)
うちのは飲みやすいので、試しに、砂糖もミルクもなしで。
そう勧められ、口にしたところ、飲めた。
そこの珈琲は、口当たりがあっさりしているので、ぼくの舌にもなじみやすかった。
(とはいえ、今でも、全部の珈琲が飲めるわけじゃない。チェーン店とか、味というか、体が受け付けないものが多い。)
それから、機会が機会を呼んで、色んな珈琲屋を知り、巡っている中で知り合いも増え、自分で珈琲を淹れ、珈琲豆まで焼き始め、ついには珈琲屋になった。
人生はなにが起こるかわからない、を身を以て体験した。
(あと、珈琲をブラックで飲んでいるせいか、紅茶も砂糖なしで飲めるようになった。)
苦いマーマレードも、気付けば好きになることもあるんだろうか。
普段口にしないから、なさそうだ、と思った。
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