春の匂いがした。
気がした。
たぶん、本当に気のせいだったのだろう。
目が覚めて、意識がはっきりしていくほど、その儚い匂いも離れていった。
夢か。
どんな夢だったんだろう。
わからないけど。
いつもの、ろくでもない夢ではない、気がする。
腑に落ちない、と言いたげに、アルネは首をかしげた。
ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。
気を遣わせてしまったな、と思う。
しばらく人と関わらなかった(関わろうとしなかった)弊害が、今さら出るなんて。
気にしすぎたところでしょうがないのは、わかっていても。
それで、気にしすぎなくなるのとは、違うんだよな。
ぼんやりしてばかりも、いられないけど。
ここしばらく、張りつめていたから。
たまには、いいのかな。
そんなことを、カフェオレになったコーヒーに思った。