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健やかなぼくは、ぼくじゃない(今朝は、カフェオレ)

はっきり目が覚めた。「はっきり」と、はっきり言えるほど。


いいことだけど、はっきりしない性質ゆえなのか、なんだか、言いようのない居心地の悪さを感じてもいる。

――あら、珍しい。

――おはよう、アルネ。

――どうしたの?

――どうしたの、とは。

――目が、しっかり開いているわ。

――……いいことなんじゃないかな。

――開いていないのも、いいことよ。ときには。

――そうだったっけ……。

物思いに耽りかけたぼくを、アルネがまた、じっと覗き込んだ。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――今朝は、コーヒー?

――あー……まあ、とりあえず用意してる。カフェオレもできるよ。

――じゃあ、カフェオレ。

――わかった。

――……。

――? 何?

訊ねたぼくをさておいて、アルネは背を向けてしまった。


そんなに、一時的とはいえ、健康そうなぼくは、不自然かな。まあ、ぼくが不自然だと思っているんだから、そうなのかもしれない。


ミルクパンの中で、ふつふつとあたたまっていく牛乳を眺めていると、なんだか眠くなってくる。四六時中眠いのが、ぼくだった気さえする。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。

――どういたしまして。

――……。

――あれ、口に合わなかった?

――いいえ、おいしいわ。とっても。

――……そう、ありがとう。

――……。

――ぼくも、不自然だと思ってるよ。

――え?

――今のぼくが。目が、しっかり開いてるぼくが。でも、今日はそういう日みたい。不健康な生活の中の、ほんの少しの健康。ぼくみたいなのにも、あるんだね。

――……今の君が、嫌とは言っていないわ。

――わかってる。健康なのが、一番いいことも。不健康だと、嫌でしょうがないことも。

でも、健康的な人間って、ぼくじゃない気がする。もし、ぼくが根っから健康的な人間だとしたら、何も書いていないと思う。

――極端ね。

――極端だよ。……健やかに過ごしたいくせに、同時に、それが叶うことが怖いんだ。

――訊いてもいい?

――うん。

――今後、何事もなく、健やかに過ごせる日が来ると思う?

――まったく。……今がどんなに幸せでも、ぼくが囚われているものからは、抜け出せないよ。たぶん、一生。

――……。

――……。

――このカフェオレ、おいしいわ。

――ありがとう。

――健康でも不健康でも、付き合ってあげる。一生。

――……アルネ、ありがとう。

どんなことからも、逃げられるなんて。それは夢物語で、今すぐ叶ってほしいのに、何があっても叶ってほしくないとも思っている。この板挟みは、続いていく。


だからこそ、ぼくは筆を進める。これから先も、ずっと。

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