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治って、罹って、そのくり返し

なにもかも、吐き出した。


比喩じゃなく、本当に。


胃の中身を、全部。


自分でも、わからないけど。

――大丈夫?

――……う、

――ああ、ごめんなさい。無理に喋らないで。

ぼくは、大丈夫なのか、そうじゃないのか、自分でもわからないけれど、首をふっていた。


まだ、もどしながら、咳は続く。


落ち着いたころには、ずいぶん長い時間が経ったように思えた。

――……大丈夫?

――……はい。

――大丈夫じゃなさそうね。

――咳は、止まったから。その意味では、大丈夫。

アルネは、首をかしげたまま、ぼくの顔を覗きこんだ。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――なんだか、

――?

――病気で寝込んでいたときより、苦しそう。

――んん……。どうだろう。そうなのかな。そうかもしれない。

――……。

――いや、でも、大丈夫だよ。本当に。まったく、大丈夫に見えないとは思うんだけど。その「病気」を、少し引きずってるだけみたいだから。

――息苦しいあまり、嘔吐してしまうことが、「少し」?

――……「少し」って、思わないと、もっと苦しいから。

――お薬は、もらったの?

――うん。即効性のあるものじゃないけど。だから、少しずつ治ってくよ。……たぶん。

――苦しい?

――……苦しい。

――ごまかされたら、どうしようかと思ったわ。

――自分をごまかしたところで、どうこうなるものじゃないしね。まあ、苦しいし、つらいよ。いつどこで、こんな風になるのか、わからないから。

――また、部屋にこもるの?

――んん……様子を見ながら。発作は、突然起こるけど……。でも、ようやく、外に出ていいよ、って、なったから。それに、外にいる方が、具合がいいんだ。どうしてなのか、わからないけど。

――……次の週から、天気が崩れるみたいだけど。

――……どうしようね。

――冷たい空気が、だめなのかしら。

――かもしれないね。とはいえ、熱中症になるわけには、いかないしね。

――むずかしいのね。

――うん、すごくむずかしい。

――……咳、もう大丈夫なの?

――たぶん、とりあえずは。……吐くのって、覚えてるより、つらいな。ひさしぶりに体験することばっかりだ。

――顔、少し白いわ。

――……まあ、あれだけ吐いたあとだから。

――お日さまに当たる?

――……そうだね。まだ、すずしい内に。

なんだか、この数ヶ月、ケガをしたり、病気になってばかりだ。


治っては、またなにかに罹って。


そのくり返し。


まあ、なってしまったものは、しょうがない。


そう思えるようになっただけ、ましなのかな。


ぼくは、サンダルをひっかけた。

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