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甘く柔らかな眠気とは(今朝は、ホットミルク)

ずっと。


ずーっと。


眠たいまま。


朝も眠たくて、昼も眠たくて、夜は、早すぎるくらいの時間に眠った。今の今まで、こんこんと眠った。


それでも、ぼくは、眠たいです。

――あと、痛い。

――痛い?

――ろくでもない夢しか見ないから、体が緊張するんだ。だから、肩とか首とか、すごくこる。

――睡眠は、休息のための手段じゃないの?

――そうあってほしいんだけど。

アルネが、よくわからない、と言いたげに、首を傾げる。


ぼくにしか見えない、ぼくだけの女の子。

――空が曇っているとね、眠くなりやすいらしいよ。なんか、酸素が薄くなるとか、なんとか。

――天気、しばらく下り坂じゃなかったかしら。

――……。

――曇りも雨も、嫌いじゃないんでしょう。

――そうなんだけどね。でも、残念ながら、それとこれとは別みたい。ぼくは好きだけど、曇りにも雨にも嫌われてるみたい。調子が悪くなるんだもの。

――どうしようもないのね。

――そういうこともあるよ。そういうことしかない気もするけど。

――ねえ、今朝は私が淹れるわ。

――アルネが?

――ホットミルクしかできないけど。

――ううん、うれしいよ。ありがとう。

台所から、ほのかに甘い匂いが漂ってくる。


ぼくは、自分の肩や首に触れてみる。その固さは、夢がどれだけひどかったかを、物語っている。

――はい、どうぞ。

――ありがとう。……ああ、おいしい。肩の力が抜けそう。

――そのためよ。

――?

――全身から力を抜くために、なにか一杯必要でしょう。君が、ずっと緊張しているのなら。

――……。

――おせっかいだったかしら。

――そんなこと。ただ、力を抜くって発想が、あんまり出てこないんだ。本当に、ずっと緊張してるから。だから、うれしいよ。

――ふふ。眠気は覚めないかもしれないけれど。

――それはそれで、いいよ。眠ること自体は、悪いことじゃないから。……夢を見なければ、だけど。

――あたたかくて甘い牛乳を飲んだ後なら、違うかしら?

――それは、違うだろうね。昨晩は、ぐったりして眠ってしまったから。もちろんそれは、悪いことじゃないけど。でも、ホットミルクがお供なら、夢もあたたかくて甘くなりそう。

――苦しいことが、少しでも減るといいわね。

――うん。……うん。ありがとう、アルネ。

眠気は、変わらず覚めない。


でも、さっきまでの重苦しさは消えて、甘く柔らかくなっている。


もし、また眠ってしまったとしても、苦しい眠りにはならないかもしれない。


そんな眠りから覚めた後は、きっと、優しい日が待っている。

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