シェア
相地
2021年7月12日 21:00
「ただいま」「おかえり。何してたの、今まで」 玄関で迎えた俺に母さんは答えず、「疲れちゃった」と上がり框に腰を下ろした。「中、入んなよ。そこで休まなくても」「あんたも座んなさいよ。親孝行」「ここで?」 と口では言いつつも、『親孝行』の言葉に弱い俺は、素直に母さんの隣に座った。「母さん、どこまで行って」「懐かしいわね」 母さんは、遠くを見る目で言った。「クロがいな
2021年6月10日 21:00
これは、ある友人から訊いた話である。 当時中学生の彼女には、いじめを受けているクラスメイトがいた。仮にAさんとする。 Aさんは、クラス内のいじめグループに目を付けられていた。日々罵られ、提出物を隠され、生傷も絶えなかった。友人を含め、クラスの誰もが彼らをよく思っていなかった。 しかし、彼らが九人という大所帯であること、担任も見て見ぬフリをしていることから、自身がいじめられないためには
2021年5月8日 21:00
毎晩、丑三つ時に目を覚ます。まるで、目を逸らすなと警告されているように。 天井が、夜な夜な迫っている。 始めは、気のせいだと思っていた。本来、床から天井までの距離は二メートル以上あるはず。けれど、男ではなく天井に迫られ早一ヶ月。一昨日より昨日、昨日より今日、布団の上の私と天井の距離は確実に縮まっている。 しかし、天井は日の下に本性をさらしたくないのか、朝になれば元の高さに戻っていた。