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それは、あまりにも小さなことだけど

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「それ」は、生とか人とか。取るに足らないことかもしれないけど。それでも。(短編集)不定期更新。
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#一駅ぶんのおどろき

イッツ (ア) ファンタスティック

「慣性の法則?」

「うん。……ええと、つまり、君を忘れようと思っても、すぐには忘れられないってこと」

「じゃあ、魔法をかけてあげる」

「魔法?」

「1日目には、体温。2日目には、匂い。3日目には、私自身を、忘れることが出来るように」



「おは、」

そこまで云いかけて、云うべき相手がいないことに気付いた。

そうか。
君は、もういないんだ。

『荷物、全部置いていくから』

『何で?

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――僕、君のこと好きなんだよ。知ってた?

――知ってた。

彼女は、事もなげに言った。

あまりにも「事もなげ」だったから、僕は、その次に何を言おうか、忘れてしまった。何を言おうか、言わまいか、そのどちらかを忘れてしまったんだ。

――ええと、それで、

僕は、仕切り直すことにした。

――君は、僕を好きなの?
――さあ。
――さあ、って。

彼女は、ふあ、と欠伸をした。もちろん、わざとだ。

僕は、「さあ」なんて言われることも予想の範囲

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