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空想の世界は西の空にある 『ポニイテイル』★77★(最終章)

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3人が立ち上がりました。どうやら試験が終わったようです。これからチリ星試験官のホコリ姫面接官への愛の告白タイムでしょうか。ふたりの少女は、そのシーンを目撃したいとは思いつつも、さすがにそれはひどいし、見つかったらこの宇宙に置いていかれるかもしれないので、ランデヴー号に引き返すことにしました。

しばらくするとハレー少年がひとりで船にもどってきました。

「どうだった?」
「くわしいことは帰り道に話すよ。さあ、早く出発しよう!」

ハレー少年は船外用の宇宙服を見事なすばやさで脱ぎました。

「ええ? どういうこと? 試験官を置いていくわけ?」
「だって、あの男の人、あの女の人が好きなんでしょ」
「そうだけど」
「なら素直にふたりで暮らすのが1番だと思って。さあ、邪魔者はさっさと消えよう」

ハレー少年は銅色の腕輪の位置をキュッキュと直しました。同じ色の腕輪は、プーコ隊長の右腕にもあど隊員の左腕にもはめられています。

「ひとりで運転できるの?」
「大丈夫だと思う。来るときに観察していたから。まずここをこうして」

宇宙船ランデヴー号のエンジンが、大きな音を立てて作動しました。

「ほら、こっちの、前の方の席に来なよ!」

前方のコックピットには、ゆったりと伸びができるシートがぜんぶで四つありました。たくさんのコンピュータパネルやモニタが、船内のカベをうめつくしています。

「スゴイ!」
「ちょっと、そこのブラウンのボタンを軽く2回押してくれない? 軽くだよ」

ハレー少年に指示されたプーコ隊長が、おそるおそる手元のボタンを2回押すと、座席の横からチョコレートのつぶがポポンとふたつぶ、飛び出してきました。

子どもだけが乗った宇宙船は、アリス星を離れ、ゆっくりと宇宙へ旅立ちました。

「ハレー少年、ほんとにほんとに大丈夫かな、試験官を置いてきて」
「大丈夫だと思う。たぶん両思いだね」
「そうじゃなくてテストのこと。勝手にこんなことして不合格にならないかな」
「どうだろう。でも、自分ひとりで運転して帰って来た方がすごいかもしれない」
「面接では何を聞かれたの?」
「もうたくさんのことだよ。銀河のこと、星のこと、ロケットの構造、過去に学んだこと、未来にやりたいこと、きみたちのこと」
「わたしたちのことも聞かれたの?」
「うん。いい友だちを持ったねだって。宇宙への旅という命がけの、おそろしいことについてきてくれた時点で、特別の親友と判断できるってさ。一生大事にしなさいなんて余計なことを試験官にいわれたよ。あと、あのしっぽのらくがき、ふたりとも笑ってたよ」
「なんだ、チリ星は意外といい人か。こわい人かと思ったよ」
「宇宙の旅は危険だからね。厳しく守らなくちゃいけないことがたくさんある」

速度と軌道が一定に保たれたところで、ハレー少年はハンドルから手を放し、ブラウンのボタンを3秒ほど押し続けました。しばらくすると、ハレー少年の座席の右側から、湯気が立ちのぼるココアが出てきました。

ハレー少年はココアを飲みながら心を落ち着けて、意を決してふたりにいいました。

「最終試験では、家族のことも聞かれたんだ」
「そうなんだ……」

もしプーコが家族のことを聞かれたら、きっとこまってしぼんでしまいます。プーコの両親はちょっと異常なくらい忙しくて年に数回しか会えないのです。これはプーコがみんなに隠している最大のヒミツです。あどちゃんにいたっては生まれたときからお父さんお母さんがいません。気づいたら森のキノコの家で、動物たちと暮らしていました。

「面接では答えなかったけれど……」

広がる大宇宙を前に、ハレー少年は大切なことのはじっこを親友のふたりに伝えました。

「ぼくが6才のとき、父さんと母さんは、有人探査機に乗って、ある惑星の探査に行ってしまったんだ。それっきりまだ、もどって来ていない。その船は当時の最新型だけど、今と比べればだいぶ大ざっぱなつくりでね。そう、ちょうどこの船みたいなタイプ——」
「ええ! この宇宙船ヤバいの?」
「だからぼくは1秒でも早く宇宙飛行士になって、最新のもっと安全な、高速の宇宙船でふたりのもとへ行くつもりなんだ」
「みんな……いろいろあるんだよね」

プーコは泣いているような笑っているような顔です。
そんなプーコのことばに、あどが元気よくつけ加えました。

「でも生まれつきだからね。ウチ、宇宙のことを詩にする! ユニ情報だと、ウチのお母さんは詩人だったんだって! よーし、帰るまでにいっぱい宇宙の詩をつくるぞ!」
「いいな! わたしも!」
「パナロさんは詩が大好きだから、いいおみやげになるよ」
「みんな元気かな……。ペガはちゃんとおとなになれたのかしら」

 プーコは心配そうにいいました。あども子馬たちをなつかしみます。

「ほんと、かわいいポニイたちだったね。ユニとかいって、超足速いんだよ!」

ハレー少年はミヤコのおかげで出会えた親友ふたりに、すばらしい提案をしました。

「帰り道はさ、西の空を通って行こうよ! 空想の世界は西の空にあるっていうから」
「大さんせい!」
「ようし! じゃあ、もっとスピードをあげるよ!」
「行け~!」

おそろいの銅色の腕輪をした子どもたちは、金色のユニコーンみたいなスピードで天の川をかけぬけます。いまや3人の小さな胸には、銀色のペガサスのような勇気が宿っています。このとき夜空を見上げていた、この宇宙にいる子どものひとみには、金・銀・銅が美しく混ざり合った、すてきなキラメキが映ったことでしょう。


『ポニイテイル』【完】

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